介護問題:外国人に来てもらうか、それとも自分が出ていくか

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核家族化や少子化が進行する社会では、要介護者を施設に入所させて、専門家が集中的にケアを提供する方が効率的である。しかしながら我が国では、訪問介護や訪問看護といった居宅サービスが中心であり、特別養護老人ホームのような施設サービスは補完的な役割にとどまっている。介護保険における施設サービスは居宅サービスに比べて高額であり、増えすぎると介護保険財政に多大な影響を与えるため、規制により供給が抑えられているからである。その結果、介護保険施設は慢性的に不足し、特別養護老人ホームに入居したくても入居できない待機高齢者が約52万人(2014年3月厚生労働省集計)も存在する。


一方の居宅サービスはと言うと、「給付に上限がある」「必要な時にサービスを使えない」「スタッフ不足が常態化している」など、こちらも十分なサービスを提供できているとは言い難い。特に介護職員の不足(※1)は著しく、団塊の世代が75歳(※2)となる2025年度には237万人~249万人のスタッフが必要とされているにもかかわらず、2012年度時点で149万人しか確保できていない(※3)。こうしたことから、親や配偶者が要介護者になると、介護のために退職せざるを得ないといった事例も散見されている。減少を続ける勤労世代が、家族の介護のために労働市場から退出するのは、日本経済にとって大きな損失と言えよう。


このような事態を直ちに解決に導く特効薬は存在しないが、対症療法として2点ほど考えられる。その1点目が外国人介護職の受け入れである。


2008年度以降、我が国ではEPA(経済連携協定)に基づいて介護従事者をフィリピンやインドネシアから1,100人余り受け入れている(2014年度よりベトナムからも受け入れ)。人数が少ないのは、EPAが経済連携協定であり、労働力不足への対応が目的ではないからである。それ故、受け入れ条件は厳しく、現地の大学を卒業した介護士か、看護学校を卒業した者しか応募できない(※4)。来日後、4年以内に介護福祉士試験を受けることになるが、受験資格を得るためには3年以上の就労・研修が必要であるため、受験の機会は1回のみであり、合格できなければ帰国することになる(※5)。この他にも、外国人の日本語教育費用は受け入れ施設が負担するなどハードルは高い。


今後、他の先進国でも高齢化は一層進行し、要介護者が増加することはほぼ確実である。そうなると、こうした国々の介護労働者の価値が高まり、争奪戦になるのは必至であろう。その時になって困らないように、今のうちからEPAとは異なる受け入れ対策を検討しておくべきであろう。


2点目は、アジアの一部の国への移住である。一般的にアジアには親日的な国が多く、若年人口が増加しているため、介護人材には事欠かない。また、介護技術の水準も日本政府が受け入れを認めているように決して低くはなく、ホスピタリティも高いとされる。さらには、日本と比較して物価は相当安いため、今後減額が見込まれる年金額でも生活は可能であろう(現在の経済状況が大幅に変わらないという前提ではあるが)。


とはいえ、移住が容易でないことは確かであろう。実際、言葉や環境、習慣の違いなど、デメリットは少なくない。中でも、言葉の問題は大きく、「話が通じない」「言っていることを理解できない」など、ストレスは相当なものになると予想される。ビザの関係や住み始める時期など、クリアすべき課題も多い。


しかし数十年後には、財政問題や少子高齢化の影響により、日本にいても今と同じサービスを受けられる保証はない。むしろ悪化している可能性が高いだろう。年金減額が見込まれ、公的介護施設や介護者の不足が懸念される。それならば、手厚い介護サービスを受けられるアジアで暮らした方が、充実した介護生活を送れるのではないだろうか。


どちらも弥縫策であり、抜本的な解決策ではない。しかし、少子高齢化に伴う介護の問題が不可避である以上、今のうちからさまざまな選択肢を検討し、何らかの手を打っておく必要があるといえよう。

2010年の人口分布(1億2806万人)
2025年の人口分布(1億2066万人)
2060年の人口分布(8674万人)

(※1)2014年7月時点における一般職業の有効求人倍率(職業別有効求人倍率(パートタイムを含む常用))が0.95倍であるのに対し、介護サービスの職業の有効求人倍率は2.18倍である(厚生労働省「一般職業紹介状況」)。
(※2)75歳以上高齢者の約3割が要支援もしくは要介護者である(厚生労働省「平成24年度 介護保険事業状況報告(年報)」)。
(※3)厚生労働省 社会保障審議会介護保険部会(第45回)平成25年6月6日資料4「介護人材確保関係」〔p.2(出典:厚生労働省「介護サービス施設・事業所調査」、「医療・介護に係る長期推計」)〕
(※4)日・フィリピン経済連携協定には、病院又は介護施設で就労・研修を行って看護師・介護福祉士試験に合格して看護師・介護福祉士資格の取得を目指すコース(就労コース)に加えて、介護福祉士養成施設で就学し介護福祉士資格の取得を目指すコース(就学コース)が設けられている。
(※5)短期滞在資格が得られれば再受験が可能である。

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