ODAで海外展開を加速~中小企業に大きなチャンス

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安倍政権が日本経済の再生に向けて打ち出した「日本再興戦略」(2013年6月14日閣議決定)の3つのアクション・プランの一つは「海外市場獲得のための戦略的取組」であり、経済産業省はじめ各省庁及び政府関係機関が様々な施策を打ち出している。なかでも、外務省及びJICAによるODAを活用した中小企業の海外展開支援の積極化が注目されている。


国内、海外を問わず、新規事業の展開に当たっては事業化に向けた情報収集、市場動向、自社製品・技術・サービスに対するニーズの把握が不可欠であり、特に海外での事業に取り組む場合は十分な準備が必要である。しかし、多くの中小企業では先行投資となるこれら活動に必要な資金、人材等の経営資源が不足しており、結果として海外事業が実現しない、あるいは、反対に、十分な検討なく経営者の「勘」に頼って踏み出してしまう例がみられる。


外務省及びJICAは、海外展開を目指す中小企業に対し、事業の検討段階に応じて「中小企業連携促進基礎調査」(助成金額1,000万円規模)、「ニーズ調査」、「案件化調査」(同3,000万円及び5,000万円)、「民間提案型普及・実証事業」(同1億円)と多様な支援プログラムを用意している。各プログラムはいずれも他の公的な補助金、助成金等に比べて金額規模が大きいことに加え、外部のコンサルタント、シンクタンク等との協力が前提、あるいは、これら外部人材の活用を促進していることが特徴である。資金の助成と外部専門家の活用による事業化リスクの低減に加え、国の事業という「お墨付き」を得ることで、中小企業にとってハードルの高い外国の政府機関、公的機関等に対するアクセス確率が飛躍的に高まることもこれらのプログラムの大きなメリットである。ODAを活用した中小企業の海外展開支援プログラム強化は民主党政権時代に始まったものだが、「日本再興戦略」の下、従来から日本企業支援に関心が高い岸田外務大臣の方針を反映し、2014年度には各プログラムが一層拡充される見通しである。


【図表】ODAを活用した中小企業の海外展開支援メニュー(外務省ウェブサイト)


各プログラムのいずれが適しているかの判断は検討段階、対象国、事業内容等に応じて判断することとなるが、共通する要素として、以下の2点を十分理解することが必要だろう。


①ODAとの適合性
外務省、JICAの支援プログラムは「ODA」が起点であり、支援対象の事業、製品、サービスが途上国の経済・社会の発展や福祉の向上に役立つこと、すなわち「開発課題の解決」に役立つことが前提である。「開発課題」は国の発展段階によって異なるが、おおむね初期段階では基礎的なインフラの整備、貧困削減、保健医療の改善、資源・エネルギー開発、次いで各種産業育成、産業人材の育成、法制度整備支援さらに発展が進めば自然環境保全、民間部門開発と推移していく。支援プログラムの活用を検討する中小企業の中には、進出先が途上国であればODAに合致するとの誤解が多くみられるが、途上国に事業機会が存在することと開発課題の解決は必ずしも一致しないことを理解する必要がある。参考として平成25年度の「案件化調査」採択49件の分野をみると、「エネルギー・廃棄物処理・環境」が約4割を占めて最も多く、「水の浄化・水処理」、さらに「農業」、「防災・災害対策」の順となっている。また、対象国をみると、ベトナムが最も多く12件、次いでインドネシア(9件)、ミャンマー及びタイ(各5件)である。開発の初期段階から中期の途上国に対し、優れた技術を持つ中小企業が課題解決を図るパターンが多く採用されたと解釈されるが、個々の国の事情によって開発課題と位置づけられる分野は異なり、日本のODAが重点を置いているか否かも重要な要素であるため、多様な観点での検討が必要である。


②「自助努力」が柱
各種支援プログラムは、自らの努力で海外展開しようとする中小企業を後押しするために設けられたことを認識すべきである。各プログラムの共通の目的は企業がそれぞれの海外展開構想を実現させることであり、将来のODAにおいて製品等の採用を約束するものではない。あくまでも、自らの経営判断に基づく海外展開を加速させるきっかけとして位置づけ、活用すべきものである。また、自社の事業である以上は当然であるが、外部専門家の活用以前に、中小企業自身が人材を含めた経営資源を投入して取り組む決断、実行力、持続力も求められる。


上記を理解した上で、自社に適合するプログラムを検討し、コンサルタント、シンクタンク等の外部専門家と協力の下、応募につなげていくこととなる。パートナーとなる外部専門家を特定する以前の段階では、取引先の地方銀行、信用金庫等の地域金融機関が最初の相談先として考えられる。多くの地域金融機関は企業の海外進出支援を積極化しており、専門部署を設置するケースもある。金融機関の強みである情報力を生かした助言が得られるだろう。


平成26年度には各地の在外公館による個別の日本企業支援が一層積極的に行われる方向であり、JETRO、中小企業基盤整備機構等が従来から提供するサービスも含め、海外展開を目指す中小企業にとって豊富な選択肢が用意されている。この機会を有効に活用し、海外で飛躍を遂げる中小企業が多く現れることが望まれる。

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