急拡大する中国のシャドーバンキング

-積極評価からリスク警戒へ?-

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昨年後半頃から、中国でも「影子銀行」と称されるシャドーバンキングの急拡大が注目されている。2011年秋の温州での「民間借貸」の問題(2011年10月27日アジアンインサイト)、IMFが そのGlobal Financial Stability Report(昨年10月)の中でこの問題を取り上げたこと、昨年末に、華夏銀行が中国で初めて信託商品の違約通知を行ったことが、その直接的背景として指摘できる。最近では、いくつかの大手信託会社の資金難が明らかになったとも伝えられている(1月29日付経済参考報)。

(その範囲と規模)

中国ではおおむね、以下が影子銀行と認識されている。

  1. 個人等がアンダーグラウンドでインフォーマルに貸し付けるいわゆる民間借貸(中小企業向けが主で高リスク、利率は20%以上になる場合も多い、ネット上での個人相互の金融も含まれる)。
  2. 信託会社の提供する各種信託商品(不動産、地方融資平台、企業債等に運用。銀行の理財商品も銀行信託合作として受け入れている)。
  3. 銀行が自らの名前で個人等に提供している信託貸款(資産運用商品)、および企業が銀行に資金を預け入れ、銀行が仲介して他の企業やインフラプロジェクト等に貸し付ける委託貸款。

2012年9月末時点の残高は13.6兆元から24.4兆元の幅で推計されているとの見方がある一方、12年末で約28兆元(対GDP比54%強)にのぼるとの見方もある(以上、2012年12月5日、14日付金融時報中国語版、13年1月30日付経済参考報)。IMFレポートは対GDP比40%と推計しており、一部中国国内では、これを上回る規模と見られていることがわかる。華創証券によれば、2013年中に満期を迎える信託関連商品は3兆元を超える(上記経済参考報)。


人民銀行も伝統的な銀行融資以外の融資チャンネルが拡大していることを注視しており、2011年から「社会融資規模」というフローの統計を発表し始めている。それによると、2012年の社会融資規模は15.76兆元、うち銀行融資は8.20兆元と社会融資総額の52%、2000年代初はこの比率が90%以上であり、銀行融資以外の融資が急拡大している。

社会融資総額に占める銀行融資シェア
社会融資総額に占める銀行融資シェア
(資料)人民銀行統計より大和総研作成

(意外に多い積極的評価)

影子銀行が急拡大している直接的背景は、2011年以降採られた引締め気味の金融政策だが、より基本的な要因は、金融の自由化がなお十分進んでいない中で、資金の出し手、借り手双方の金融サービス多様化への要求が強まり、規制の外で市場原理が貫徹した結果であることだ。


このため皮肉と言うべきか、金融改革積極派からは、むしろ肯定的な評価が多く聞かれる。例えば、中国の有力な金融学者のひとりである李楊社会科学院副院長は、「資金の出し手、借り手双方の金融多様化への要求から発生したものであり、これを禁止または厳格な監督下に置こうとすると、金融効率面で大きな対価を支払うことになる」(2012年10月22日付新世紀)としている。人民銀行も4半期毎に発表する「中国貨幣政策執行報告」で、社会融資規模統計の中の銀行融資以外の部分が増加していることについて、「融資構造が多様化し発展している」と評価している他、同銀行総裁、銀行業監督管理委員会主席は、昨年11月党大会時での共同記者会見で、「金融サービスへの需要は多様化しており、伝統的な銀行業務では必ずしも提供できないサービスもあり、多様化の方向は不可避」と発言している。当局のこうした肯定的発言の背景には、影子銀行が、良くも悪くも景気を支えている側面があるという事情も大きいだろう。


米国のサブプライムのようなリスクについては、「その規模はなお大きくなく、また大部分の非銀行部門の活動も監督下に置かれていることから、グローバル金融危機の中でクローズアップされた先進国のシャドーバンキングの問題とは異なる」(上記記者会見)、「中国における資産運用商品の主体は個人で、米国のように資産価格の下落で銀行部門がバランスシート調整を行い、急激なデレバレッジ効果が生じるとは考えにくい」(北京大学教授他、「国際経済評論」2012年2月)と、否定的な見方が支配的である。

(リスクの認識と政策対応)

他方で影子銀行の急拡大は、中国の金融システムにとって不安定要因にもなってきている。第一に、民間借貸が地下金融化していること、特にネット金融が「三不管」と言われるように、参入規制、業務規制がなく、監督官庁もないという野放し状態にあること、第二に、監督当局があっても商品の性格上複数にまたがることになり、単一の責任ある当局がないこと、第三に、短期の資金をインフラ建設や不動産等長期に運用しているというミスマッチ(錯配)があること、第四に、不動産、融資平台向け融資が多く、ひとたび不動産市場が急落すると、程度の差はあれ、サブプライムと同様の負のスパイラルが起こり、現在少なくとも表面上は低い金融機関の不良債権比率が、短期間に急激に悪化する可能性は排除されない。さらに信託商品の拡大によって、これまで安定的であった銀行預金の変動が大きくなっていることだ。


金融当局も、これらの点を十分認識している節がある。上述、昨年11月の共同記者会見の席上で当局は、「リスクの管理監督については高度の警戒を維持していく必要がある」とも指摘しており、実際、銀監委は、すでに2010年、11年に、銀信理財合作業務の関連事項に関する「通知」を相次いで発表するとともに、11年10月、全金融機関に対し、オフバランス取引の詳細を報告するよう求めている。13年1月に開催された全国銀行業務監督管理会議では、改めて「不動産業等へのオフバランス業務のリスクを厳しく管理すること」が強調された。人民銀行も、2011年8月、オフバランス資産(手形引受、いわゆるBAに関する保証金)の一部を預金準備率の積算対象に含めることを決定している。


バーゼル規制との関係では、中国は現在、バーゼルIIIの導入に向けた準備も開始しており、レバレッジ比率も指標のひとつとして導入することとしている。元来、中国の銀行は預金貸出中心で、欧米に比べレバレッジは低かったが、オフバランス業務拡大で上昇してくることが予想され、これら規制により、オフバランス業務の過度の拡張を抑制する効果が期待されている。


さらに昨年3月、国務院は「温州金融改革試験区」の設立を決定、中小企業金融専門機関の設立等12項目にわたる方針を設定した。いずれも地下に潜っている民間資金を動員しながら適切な管理監督の下に置くことをねらっており、影子銀行の中で最も透明性に欠ける「民間借貸」問題を是正しようとするものだ。将来的には全国的な展開を考えているものと思われるが、影子銀行は中国全体の金融システムに関わる話であり、温州での試みが、今後どのように中国全体に展開されていくのか注視する必要がある。さらに地下金融との関係では、現在全く規制のないネット金融について、今後どのような規制の枠組みが検討されてくるのかも要注意だ。中国国内の影子銀行を巡る雰囲気は、引き続き積極的評価はしつつも、ややそのリスクを警戒する方向に変化しているのではないか。

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