中国の環境都市「天津濱海新区エコシティ」建設計画

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近年、世界中で注目を集める「環境都市」、この分野で中国のリードが目立つ。中国では正式認可された環境都市が約20あるが、なかでも最も先進的で象徴的といえるのが、天津市(直轄市)濱海新区に建設中の天津エコシティ(天津生態城)である。

シンガポール政府との共同プロジェクトとして建設が進む同エコシティは濱海新区の北寄りの位置にある。天津市の中心部から45km、北京からは150kmに位置し、全体の開発面積は30km2、人口は2020年に35万人に達する予定である。住宅地域、産業地域、商業地域、公園、学校、病院、公共施設からなり、中心部では天津市中心とを結ぶ路面電車が建設される。既に2008年の北京オリンピック時に北京南駅から天津駅までの高速鉄道が開通、時速370kmで両都市をつないでいる。高速道路も完成しており、エコシティには北京から1時間半でアクセスできる。また、大連までの高速鉄道も建設中で、エコシティの北側に駅が建設される予定である。

何れにしろ、エコシティは天津と北京という二大都市に隣接しており、交通の便、人的資源、将来性などの優位性がある。そのコンセプトは「持続発展が可能な都市」であり、人と人、人と経済、人と自然という「三和(三つの調和)」、ならびに実行が可能、複製が可能、普及が可能という「三能(三つの可能)」の実現を目指している。温家宝総理は天津での経験を中国国内の他の都市づくりに活かす必要性を強調しており、天津の成功は全国の都市づくりに反映されていこう。

中国とシンガポール両国政府はエコシティの建設基準として26項目の環境指標を制定している。そのうち22項目はエコシティが完成する2020年までに達成しなければならない指標で、一つの指標でも未達成の場合はエコシティとして認可されない。エネルギーのリサイクル分野をはじめとして欧米や日本から多くの先端技術を導入する予定で、市場の潜在的規模は非常に大きなものとなる。

例えば、エコシティではマイカーの使用を抑制する一方で、ライトレール、路面電車をはじめ電気自動車、ハイブリッドカーなどを効率良く利用した便利な交通網をつくり、将来的には域内交通の90%以上を低炭素型交通で賄う交通網を実現する予定である。東京では複雑な地下鉄・電車網が整備されているが、それでも通勤での低炭素方交通利用率は約70%に止まるから、天津の掲げる目標が非常に高いことが分かる。同目標を達成するために、人が歩行で往来する適切な距離である500m範囲内に必ず駅やスポーツ施設をつくり全ての人がアクセス容易な街にする。さらには、中国初のバリアフリー都市の建設も計画されるなど、まさに環境面で世界の最先端を行く街づくりが期待されている。なお既に、エコシティ内には科学技術パーク、アニメ産業パーク、IT産業パークなどが建設中である。さらに3D映画制作パークの建設も予定されており、限られた土地を有効に利用する最先端の省エネ型都市が設計されている。

今後、濱海新区に勤務する者の約半数がエコシティに住むようになる。そのうち60%はエコシティ内に勤務して、且つ居住する人たちで、残りの40%は北京、唐山などの周辺都市に居住、シンガポールや日本などの外国からもエコシティへの居住者となる者がでてくると考えられている。35万人が居住するエコシティは環境にやさしく、調和のとれた都市であることが大きなコンセプトだ。35万人都市では大きなエネルギー源も必要となるが、その20%を再生可能エネルギーで賄うことが検討され、バイオエネルギー、ヒートポンプ、太陽光発電などの再生可能エネルギーが導入される。このようなエネルギー源をネットワーク化して管理するシステムも必要で、都市全体のエネルギーを管理、再生可能エネルギーの最も効率的な利用を推進する「スマートグリッド」設計が随所に活用される。水分野でもリサイクル水や雨水の有効利用、海水の淡水化により、必要な水の50%以上を賄う予定である。世界的に水問題が注目される中で、大変先進的なシステムが考案されようとしている。また、資源循環システムでも、60%という非常に高いリサイクル比率が求められており、瓶やプラスチック、あるいは燃料化など、様々な手段を総合的に合わせたリサイクルシステムの構築が検討されている(因みに日本で比較的リサイクルが進んでいる横浜市でもリサイクル率は30%強に止まる)。

環境技術というと、これまでは日本など先進国が若干古い技術を中国に持ち込み活用する姿が一般的であったが、新しい環境価値が生まれる現在の天津では、世界中の先進企業が最先端技術を持ち込んで、ここでさらに新たなる価値を生み出そうとしている。いずれ天津で生まれた新エネルギーシステムが世界をリードし、日本やアメリカなどの先進国に対して、中国が新しい価値を発信していく時代も遠くないと考えられる。

ただし、環境都市で求められているのは単に一つ一つの機器、単純な要素技術だけではない。都市のビジョン、住民の生活など、高いレベルの設計思想や哲学がなければいけない。その意味で、日中間でも両国政府の政策と企業が持つ様々な技術を結ぶ重層的な提携関係が非常に重要で、その際に単にビジネスのみならず、いかに良い都市づくりに参加するかという相互に亘る哲学が不可欠となろう。環境都市における産業面での価値だけでなく、そこに住む人々の生活環境づくりにどのように貢献するか、エコシティを中心とした循環型経済確立における中日両国の相互協力は、世界の持続可能社会の形成に大いに役立つものとなろう。


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