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中国で相次ぐ学校襲撃事件に何を問うべきか

2010年05月25日

範 健美

日本でも一部報道されたようだが、中国では学校や幼稚園での無差別殺傷事件が相次ぎ、社会に衝撃が走っている。福建省で3月23日に男が小学生を襲い8人を殺害した事件が発生したのを皮切りに、広東省や広西チワン族自治区、江蘇省、山東省、陜西省でも児童を狙ったテロが立て続けに起こった。報道によれば、過去2ヶ月間で一連の事件による死者数は18人、負傷者数は約100人に達している。学校襲撃事件は既に国家レベルの緊急事件となり、いかに学校安全を守るかについて胡錦濤主席や温家宝首相も重大な関心を寄せている。政府は『学校保安勤務業務規範』を発表、各地で各種の安全防護措置を取る動きが広がっている。学校専用警備員の訓練や常駐によって学校の安全を守ろうとする試みが進む見込みだ。


中国では6年前の2004年4~10月にも、同じような事件が続いたことがある。7校で襲撃事件が発生し、生徒ら100人以上が死傷したことで、今回と同じように学校側の安全管理が厳しくなり、一旦事件は終息していた。しかしながら、その後6年経過した今となって再燃したのが実情だ。


今回の一連の犯行についてはいずれも子供と直接な因果関係はないとされている。賃金に対する不満や病気・生活苦、あるいは休職中の教師が学校に対し憎しみを持った例など犯行動機は様々である。他方、精神疾患者による一例と比較的生活水準の高かった農村商人の一例を除くと、ほかの事件に共通するのはいずれも社会の富裕層ではない者による犯行であった点である。


改革開放路線に舵を切って以来、市場経済拡大の恩恵で中国では一部の層が富を手に入れた。しかし、生きていくだけで精一杯の生活を強いられている層もまだ多く、格差社会が如実になりつつあるのも事実だろう。さらに物価の上昇、特に不動産価格の高騰は、貧困層の生活を更に苦しくしているはずである。これまでは穏やかに過ごしていたとしても経済的な生活基盤が動揺した途端に、極端な行動に出る人間が現われない保証はない。


例として挙げられるのは、山東省濰坊市で4月30日に発生した事件である。犯人の男は節約して貯めた6万元の貯金と6万元の借金を用いて新居を建てた。しかし、国土関係部門から違法建築であるとの指摘を受け、強制解体が命じられてしまった。その結果自暴自棄となって小学生に暴行を加えたものと見られている。一人っ子政策が実施されている中国では、子供は「小皇帝」「小姫様」と称されるように特に大事にされている面がある。このため、子供を襲撃対象としたら必ず社会の注目を集めると密かに考えていたかもしれない。実際、子供を殺傷する事件が相次いだことについて、社会では確かに重大な関心が寄せられるようになった。また、中国においても経済発展とともに家族を含む他人とのコミュニケーション・お互いの関心は薄くなる傾向が見られ、社会との接点が少ない者が増えているとの指摘もある。これも事件の遠因といえるかもしれない。


サーチナ社のウエブサイトでは、「学校襲撃事件について、どんな対策をとるべきかと思うか(単一回答)」とのアンケート結果が紹介されている。887人が回答しており、25%が「学校の安全と保護のために法を整備する」との回答を選んでいる。次いで「学校の安全管理を日本に学ぶ」で21%の回答が寄せられ、さらに「庶民の意見表明の場を設け、不満分子の出現を防ぐ」、「人々に児童襲撃は恥ずべき行為と教える」、「人間の尊厳について、理解を広める」、「児童を優先させる戦略を練るべきだ」、「分からない」と続いている(回答率はそれぞれ17%、11%、10%、10%、6%)。


ここで同アンケート調査において、「学校の安全管理を日本に学ぶ」との回答が21%を占めている点に注目したい。日本でもかつて小学校襲撃事件が発生したことがあった。事件の犠牲となった大阪教育大付属池田小学校では、事件後に安全面の「ハード」を整備すると同時に、学校・病院・警察・保護者・地域を結びつけた防犯ネットワークを形成するなど安全確保のための「ソフト」充実に力を入れ、効果を上げたと聞いている。また、学校襲撃事件とは例が異なるが、2008年5月に四川省で大地震が発生した際も日本から防災訓練を学ぼうとの声は強かった。つまり中国では日本が危機管理の面において豊富な経験を有し、優れたシステム構築に長けているとのイメージがある。今回の一連の学校襲撃事件が契機となって、中国がセキュリティ関連設備や関連ノウハウを日本から積極的に導入する可能性があるように思う。


そして最後にもう一つ。事件で負傷した児童や事件を目撃した子供に対して心のケアが重要だと考えるが、中国では実際にどのような対応を図ろうとしているのかはほとんど報道されず、その後の実態は不明である。中国ではまだ心のケアについての社会的な関心は高いとはいえず、支援体制が不十分な可能性が高い。心に傷を受けた子供たちを救うために、一刻も早く心のケアについて社会的な関心を高め、カウンセラーの配置や親がとるべき対応の周知を期待したいものだ。



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