初めてマンゴーを食べたのはいつかはっきりしないが、私がマンゴーの味に馴染んだのは20年ほど前のことだ。当時私はシンガポールに駐在しており、冷房のきいた中華レストランに食事に行くと、食後のデザートはマンゴープリンやマンゴーサゴ(タピオカ)が定番だった。その後も南国生活の長かった私にとって、マンゴーはありふれた果物であり、たまにスーパーマーケットで買ってきて食べることはあったものの、渇望するほど食べたいと思うことはなかった。


ところが2年前にミャンマーのレストランで出されたデザートのマンゴーの味に私は衝撃を受けた。口の中に広がった独特の濃厚な味わいと甘さは、それまで食べていたマンゴーとは大きく異なるものであり、すっかり魅せられてしまった。以来、私は俄然マンゴーの虜になり、国内でも海外でもマンゴーを見かけたらすぐに買い、味比べをするようになった。


マンゴーファンになるまで私も知らなかったのだが、マンゴーには何百といわれる種類がある。生産地は熱帯から亜熱帯の地域に広がっており、アジアはもちろん中南米やアフリカでも生産されている。マンゴー生産国として日本でよく知られているのはフィリピンとタイだと思うが、世界最大のマンゴー生産国は実はインドである。インドの統計によると年間生産量は1,600万トン以上(※1)、世界シェアは4割と言われている。フィリピンは77万トン(2012年(※2))、タイは299万トン台(※3)である。中国でも近年マンゴーの増産に取り組んでおり、海南・広西・広東・雲南を中心に年間90万トン生産されている(2010年(※4))。


日本でも70年代からマンゴーの生産が始まり、2010年の生産実績は沖縄と鹿児島・宮崎の3県で合計3,400トンだった(※5)。日本のマンゴー輸入量は2012年実績で9,700トン(※6)、このうちメキシコ産が約4割を占め、2割強のフィリピンと、2割弱のタイが続く。私の自宅近所のスーパーマーケットでは、フィリピン産のペリカンマンゴーが1個数百円で売られている。タイ料理屋の店頭では、今の時期でもタイ産のマンゴーを数百円で売っている。また、近年有名になった宮崎産のアップルマンゴー「太陽のたまご」は、東京では1個1万円程度で売られていることもある。2年前から我が家で台湾から取り寄せているアップルマンゴーは、1個あたり1,000円程度である。


ミャンマーのマンゴー生産量ははっきりとはわからないが、年間50万トン程度と言われている。一部は中国に輸出されているが、大半は国内消費の模様である。ミャンマーのマンゴーの季節は4月から8月頃にかけてである。これを過ぎると、翌年の4月までほとんど見かけなくなる。季節外れにスーパーマーケットで見かけるマンゴーは輸入品のようだ。味は薄く、甘さも弱めであり、マンゴーを食べるならやはり最盛期にかぎる。


ミャンマーで最も人気のあるマンゴーは、セインタロンと呼ばれる種類で、やや小ぶりなのが特徴である。ミャンマー人に話を聞いたところでは、かつて王様に献上されたマンゴーだということだった。私がマンゴーファンになるきっかけとなった品種がまさにこのセインタロンである。セインタロンとはミャンマー語でダイヤモンドという意味だそうだ。


マンゴーの季節にヤンゴンのスーパーマーケットに行くと、セインタロンの他にも1-2種類のマンゴーが並んでいる。いずれも色は黄色(熟する前は緑色)だが、種類によって大きさや形は異なる。味も種類ごとに少しずつ異なるが、私が過去2年間にヤンゴンで食べ比べた範囲では、いずれもとにかく甘くて濃厚な味であった。私がこれまで食したことのある他国のマンゴーに比べると、水分が多少少ないように思う。ミャンマーでのマンゴー価格は、ヤンゴンの高級スーパーマーケットの場合であっても1個あたり30円程度である。

ミャンマーでマンゴーが生産されている地域は、マンダレーの周辺やシャン州が多いようだ。マンダレー郊外にある避暑地として知られるピンウールウィンでは、富裕層の保有する別荘の庭にマンゴーの木が植えられているということもあると聞く。何ともうらやましい話だ。

日本でも場所によってはミャンマー産のエビや豆を見かけるようになった。しかし、今のところマンゴーはまだ見かけたことがない。貿易統計にもデータは見当たらないので、おそらくまだミャンマー産マンゴーの輸入ルートができていないのだろう。いつの日か、東京でもミャンマー産のマンゴーを食べることのできる日が来ることを心待ちにしている。

ミャンマーで一番人気のセインタロン
ミャンマーで見かけたセインタロン以外のマンゴー
タイで見かけたマンゴー

(※1)Horticulture Board, Ministry of Agriculture
(※2)Bureau of Plant Industry, Department of Agriculture
(※3)Office of Agricultural Economics, Ministry of Agriculture and Cooperatives
(※4)農業部発展南亜熱帯作物弁公室
(※5)農林水産省特産果樹生産動態等調査
(※6)財務省貿易統計

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

関連のサービス