第172回日本経済予測

-消費税引き上げを巡る5つの論点-

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2012年02月16日

  • リサーチ本部 副理事長 兼 専務取締役 リサーチ本部長 チーフエコノミスト 熊谷 亮丸
  • 金融調査部 主任研究員 長内 智
  • 経済調査部 シニアエコノミスト 増川 智咲
  • 齋藤 勉

サマリー

(1) 経済見通しを改訂:2011年10-12月期GDP一次速報を受け、2011-12年度の成長率見通しを改訂した。改訂後の実質GDP予想は2011年度が前年度比▲0.5%(前回予想:同▲0.3%)、2012年度が同+1.7%(同:同+1.8%)、今回新たに予測した2013年度が同+1.4%である。

(2)消費税引き上げを巡る5つの論点:現在、わが国では消費税引き上げの是非を巡る論議が高まっている。本予測では、消費税引き上げを巡る5つの論点について検討した。当社は、わが国では高齢化が進展し財政赤字が累増するなか、世界的な税制改革の潮流などに照らしても、消費税引き上げが急務であると考えている。第一に、グローバルなデータを用いた分析などからは、財政赤字の累増が経済に悪影響を及ぼす可能性が示唆される。特に、わが国では、将来不安が貯蓄率を押し上げている可能性が高い。第二に、消費税には、[1]水平的公平性・世代間の公平性、[2]経済活動への中立性、[3]高齢化社会に向けた税収の安定性、という3つの側面でメリットがある。第三に、「経済成長すれば、財政再建は達成可能」との考え方には大きな疑問が残る。第四に、海外の事例などを検証すると、消費税引き上げが必ずしも景気に大幅な悪影響を及ぼしている訳ではない、第五に、海外の財政再建の成功例などから得られる示唆として、わが国が財政再建を成就する鍵は社会保障費の削減にある。

(3)日本経済のメインシナリオ:今後の日本経済は、メインシナリオとして、東日本大震災発生に伴う「復興需要」に支えられて緩やかな景気拡大が続く見通しである。2011年の夏場以降、「欧州ソブリン危機」の深刻化などを背景に、日本経済・世界経済の減速懸念が強まってきたが、足下では、米国を中心とする海外経済に持ち直しの兆しが生じている。当社の試算では、復興関連予算は、2012年度のわが国の実質GDPを1%程度押し上げるとみられる。さらに、「資本ストック循環」などの面から見て、設備投資の緩やかな改善が見込まれることも、日本経済を下支えする要因となろう。

(4)日本経済の4つのリスク要因:日本経済のリスク要因としては、[1]「欧州ソブリン危機」の深刻化、[2]地政学的リスクを背景とする原油価格の高騰、[3]円高の進行、[4]原発停止に伴う生産の低迷、の4点に留意が必要である。第一に、欧州諸国の国債のヘアカット率に関する3つのシナリオを設定した上で、日本経済に与える影響を算定したところ、最悪のケースでは、わが国の実質GDPは4%以上押し下げられる可能性がある。今後の「欧州ソブリン危機」の展開次第では、日本経済が「リーマン・ショック」並の打撃を受ける可能性が皆無ではない。第二に、イラン情勢緊迫化などを背景に原油価格が高騰した場合、日本企業の交易条件悪化などを通じて、日本経済が「ミニ・スタグフレーション(不況下の物価高)」に陥るリスクがある。第三に、ドル円相場は、当面、75~80円前後の比較的狭いレンジ内で推移し、2012年下期にかけて円高・ドル安圧力が徐々に後退する公算である。米国で大統領選が実施される年は、ドル円相場のボラティリティが低下する傾向がある。第四に、仮に、わが国で全ての原発が停止した場合、実質GDPに対しては最大1%超の低下圧力がかかる可能性がある。

(5)日本銀行の金融政策日本銀行は少なくとも2014年度いっぱい、政策金利を据え置く見通しである。円高が進行するなど、景気下振れ懸念が強まる局面では、日本銀行が、拘束力のあるインフレターゲットの導入や、基金の残高積み増しなどを含む、更なる金融緩和策に踏み切る可能性が高まろう。

【主な前提条件】
(1)公共投資は11年度+3.9%、12年度+7.6%、13年度▲3.9%と想定。14年4月に消費税率を引き上げ。
(2)為替レートは11年度78.5円/ドル、12年度77.0円/ドル、13年度77.0円/ドルとした。
(3)米国実質GDP成長率(暦年)は11年+1.7%、12年+2.3%、13年+2.6%とした。

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