高付加価値化がもたらす輸出構造の変化

日本の輸出構造は量から質へ稼ぎ方が変化

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2016年08月31日

  • 笠原 滝平

サマリー

◆2012年末以降の円安局面において期待された輸出数量の増加が見られず、為替と輸出数量の関係に変化が生じている可能性が指摘されている。一方で、円安に伴って輸出価格は上昇し、輸出金額が増加した。


◆輸出数量の変動要因としては世界需要や輸出企業の価格設定行動などが挙げられる。世界需要の伸びは鈍化しているものの増加傾向が続いており、輸出数量が伸びない理由を世界需要の成長鈍化に求めることは難しい。


◆そこで輸出企業の価格設定行動について確認すると、為替が円安になれば、契約通貨ベースの輸出物価の低下が期待されるところだが、実際には下がっていない。そのため、輸出数量が増えていないにもかかわらず、輸出金額は増加したと考えられる。輸出物価を財別に確認すると、輸送用機器など日本の主要な輸出財の一部において契約通貨ベースの輸出物価の低下が見られない。


◆契約通貨ベースの輸出物価が低下していない背景の一つに財の高付加価値化が挙げられよう。財が高付加価値化すれば、価格競争に巻き込まれるリスクが低減することが考えられ、円安時に価格下落圧力が緩和される可能性が指摘できる。


◆高付加価値化を変数に取り入れた輸出関数の推計を行うと、高付加価値化の進展が輸出数量を安定化させることが示された。また、ローリング回帰分析により、時間の経過とともに輸出数量の為替感応度は低下していることが示唆された。


◆日本の輸出構造は、数量によって稼ぐ体制から、財一単位当たりの付加価値を高めて稼ぐ体制に変化している可能性がある。そのため、円安にもかかわらず輸出数量が伸びないことを過度に悲観する必要はない。ただし、現在の高付加価値財もいずれコモディティ化する可能性があり、生産コストの高い日本が付加価値の低い財で国際競争を勝ち抜くことは難しい。そこで、国際経済の中でのプレゼンスを維持するためには、これまでの財の高付加価値化の動きをさらに加速させる必要があるだろう。

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