物価連動債発行で注目される期待インフレ率の見方

フィリップス曲線の上方シフトには企業の期待インフレ率上昇が必要

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2013年10月08日

  • 齋藤 勉

サマリー

◆2013年3月に日銀が新体制に移行してから、期待インフレ率を巡る議論が高まっている。足下では、消費者物価指数の上昇が続いていること、財務省が物価連動国債の発行を再開することなどから、インフレ率の予測に対する注目度が増している。


◆期待インフレ率とは、物価上昇率の予測値である。大別すれば、期待インフレ率には3種類の形態が考えられる。1つ目に、市場の期待インフレ率、2つ目に、企業の期待インフレ率、3つ目に、家計の期待インフレ率である。


◆家計の期待インフレ率の上昇は、個人消費や住宅投資を押し上げる効果がある。また、企業の期待インフレ率の上昇は、設備投資の増加につながる。また、市場の期待インフレ率は、為替レートや株価など、資産価格との連動性が高い。


◆期待インフレ率の上昇がフィリップスカーブの上方シフトに繋がれば、デフレ脱却に向けた動きも前進するだろう。ただし、期待インフレ率を考慮したフィリップスカーブの推計結果から、日銀の掲げるインフレ率2%の目標達成には、前年比+4.2%と高い期待インフレ率が必要であることがわかる。


◆フィリップス曲線の上方シフトには賃金の上昇が、賃金上昇には企業の期待インフレ率上昇が不可欠である。ただし、賃上げの主体である企業は、期待インフレ率を低く見積もる傾向にある。期待インフレ率の上昇がフィリップス曲線の上方シフトにつながるためのハードルは現時点では非常に高い。


◆足下では、輸入物価の上昇を製品価格に転嫁する動きがみられ始めている。この動きは、企業の期待インフレ率上昇に向けた第一歩であると考えてよいだろう。今後は、賃金上昇を伴う形で、企業が出荷価格を引き上げることができるか否かが、デフレ脱却の焦点である。そのためにも、強力な金融緩和と成長戦略の推進を、両輪で進めていくことが重要になると考えている。

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