第13回 日本の経験を糧に、アジアの持続的な経済発展及び調和社会の実現へ

ゲスト 鈴木 茂晴氏 大和証券グループ本社 会長

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対談動画(大和スペシャリストレポート)

中国は、経済成長過程でまだ低いところにあり、なお大きな成長の余地を残している。 世界で一番成長しているのは、中国を中心とするアジアであり、地理的に近い日本にとってビジネスチャンスが拡大している。また、日本を先行事例、または反面教師として研究することで、持続可能な経済発展あるいは調和のとれた社会の実現に近づくことも可能であろう。 地理的な近さに加え、きちんとした関係を結んでいけば、日中間は30年後、40年後も良い関係でいられるはずである。

川村

今回は大和証券グループ本社の鈴木茂晴会長をお迎えしています。鈴木会長は、大和証券グループ全体の経営に社長として手腕を発揮され、昨年から会長に就任されました。中国、アジアとのビジネスについても、実績を残されています。最初に、中国との縁の始まりとエピソードについて教えていただけますか。

鈴木

中国との最初の縁は、83、84年頃だったと思います。当時、私は秘書室にいたのですが、中小の証券会社の社長と大和幹部との「ふっこ会」という懇親会がありまして、その会で上海等の視察に行ったのが始まりです。その頃は、中国と電話するのにもまず電話局に申し込み2、3時間経って始めて電話が繋がるという時代で、ホテルの予約にも困るという時代でした。その後、2000年代に私が投資銀行部門のヘッドになったときが、ちょうど中国企業の民営化の始まりと重なりました。中国企業の公募増資の日本での主幹事を獲得するために、ずいぶん中国に行きましたが、行く度に北京の風景が変わっているのには目を見張りました。どんどんビルが建ち始め、広場だったところの半分くらいは大きなビルに変わっているというように、国が伸びるときの勢いを感じました。


薛軍

大和証券と中国との関係ですが、鄧小平氏の改革開放直後の30年あまり前から、中国の資本市場改革については、大和証券グループから多大な協力を受けていたようです。その辺の話をお聞かせください。


鈴木

大和証券は、国際部の大和と言われていたぐらい海外ビジネスに関しては有力なプレーヤーでした。アジアには特に力を入れており、70年代の後半には中国に関する研究がかなり進んでいました。80年代に入ると、中国との絆を強めるべく、また資本市場が開かれたときに役立つよう、中国政府・金融機関の若手をトレーニーとして受け入れ、債券、株式をはじめ資本市場の役割や制度というものへの理解を広めようと努めました。受け入れた人数の総数は数百人に上り、その後中国で活躍されている方が数多くいます。その頃来られた方々は、それはもう熱心で知識を獲得しようと貪欲に勉強されていました。今では、中国は大きなマーケットになり、我々も教えてもらわなければならないことがたくさんあるぐらいで、あの時代を考えると本当に隔世の感がしますね。


川村

ご指摘のあった大和証券と中国の深いつながり、その一つの成果かとも思うのですが、2011年10月に大和証券グループ、具体的には大和総研と中国最大の社会科学系のシンクタンクである中国社会科学院とが基本業務提携契約を結びました。今後これを大きく発展させて行きたいと思っていますが、協力や協働など今後のあり方について御教示いただけますか。


鈴木

中国社会科学院は、今後の様々な政策ビジョンも含めて研究している中国最大のシンクタンクですから、大和総研が提携できたことは、大和証券グループにとっても非常にありがたいことです。日本は、高度成長、土地バブルの発生、バブル崩壊後の厳しい十数年を経て今に至っているわけですが、中国にとってこうした日本経済の経験は参考になると思います。また、これらに対応し積み重ねてきた日本のノウハウも研究対象になるでしょう。そういう意味で、お互いが非常に得るものの多い提携となることを期待しています。そして、できるものを一つずつ着実に実行して成果を出すというのが、まずは重要だと思います。


薛軍

中国の株式市場は、90年代初めに始まったばかりですが、現在上場企業数は2,000を超えています。先進国を見ても2,000以上の上場企業を有するマーケットは6つしかありません。これからも中国の資本市場は伸び続けるものと感じています。この点についてはどう考えておられますか。


鈴木

中国企業の民営化、IPOには初期段階から関わってきましたので、中国市場の急拡大には感慨無量です。ペトロチャイナが時価総額で世界1、2位を争っていますし、時価総額ベストテンに中国の銘柄が4、5銘柄入っています。こうした非常に時価総額の大きい企業が台頭してきていますから、今後を考えますと、QFII(適格外国機関投資家)の拡大などでもっと海外からお金を呼び込む必要があると思います。今、QFIIで認可されている額は時価総額からみて非常に小さく、市場として流動性を高めていくためには、もう少し外国人投資家が参加できるようにしていくことが必要でしょう。また、証券市場が伸びていく中では、ディスクロージャー等の問題も含めて、世界的なスタンダードに合わせていかなければならないことも出てきます。


川村

ディスクロージャー、ガバナンスは言われ続けていますね。


鈴木

今でも問題が指摘されていますので、改善の余地は大きいと思います。今後は、人民元の国際化も進み、貿易決済も当然人民元というような時代も来るでしょうが、そのときに市場を透明で公正なものにしていなければ、お金をなかなか集められないということにもなりかねませんので、その点が大きな課題ではないかと思います。


川村

中国と言えば、政治は北京、経済は上海といわれますが、一方で香港もあります。日本や海外の投資家の目がまず向くのは、北京や上海よりも、当面はやはり香港でしょうか。


鈴木

私が何度も行った感覚で言いますと、確かに香港は国際的な街ですが、上海も国際的な感じを持っています。昔から上海は交易の街として発展し、旧市街と新市街とに分かれていて、旧市街はかつて国際都市だった頃の雰囲気を持っています。最近、上海に行ってみて、上海は香港に十分対抗するものを持っていると感じました。海外からの人たちが上海ではほとんど違和感なく過ごしている、国際都市というものを感じる街であることは間違いないですね。上海がさらに整備されていけば香港の地位を越すかも知れません。

薛軍

おっしゃる通りですね。今まで30年間、香港は対外窓口、また架け橋という役割を果たしてきましたが、今後国際収支の資本勘定がオープンになっていくと、一部の機能について上海が香港を代替する可能性も十分あると思います。


鈴木

そういうものを感じますね。


川村

そういう経営トップの皮膚感覚は、ものすごく大事だと思います。その点で、日本市場に関してですが、20年前のバブル時に日経平均株価が4万円近くに達したものが、現在は、戻ったといってもその約4分の1です。この価格の差は何なのでしょうか。いろいろな分析が出ていますが、第一線にあった経営トップの目からは、その違いをどのように感じておられますか。


鈴木

もともと経済というのは、バブルを重ねて発展してきたという面もあるのです。つまり、信用創造で膨らんだものを引締め策でじわじわコンクリートのように固めていき、硬くなったところでまた信用創造を膨らませて大きくしていく、いわばバブルを少しずつ作りながら発展してきたという見方もできるのです。バブルというのは、皆がこの状態はずっと続く、しかもリスクはコントロールされているという幻想に陥っている状態です。ただし、80年代後半の日本のバブルは、コンクリートで固める前にあまりに膨らみすぎて破裂してしまいました。日経平均株価で見ると4万円近いところまでいって、今は1万円前後ですが、時価総額では半分ぐらいの水準です。新規上場や2000年の日経平均銘柄の大幅入替えのため単純な比較はできませんが、実質的には今の水準より4,000円ぐらい上にあるのだろうという感じがします。


川村

この3、4年、中国経済はバブルではないかという見方もあります。中国国内や日本の調査機関の見解などを見ると、バブルは多少あるけれどもソフトランディングできるだろうとしています。それに対して、日本のメディアの論調は、どちらかと言うと、中国はバブルが崩壊して大変なことになるという悲観論が多いようです。どちらが正しいのか判断が難しいところですが、中国経済の現状をどのように捉えられていますか。

鈴木

日本の80年代後半のバブルと、中国の現状とはまったく違うと思います。どちらかと言うと、中国は、池田首相の所得倍増計画の頃の日本に近いのではないでしょうか。まだ初期の離陸をしたという段階で80年代後半の日本とは成長のステージが全く異なります。もう一つ言えるのは、かなり個人的な感覚ですが、日本は人口が1億人で均一的な国民ですからすぐ沸騰します。一方、中国は人口が15億人ですからこれを沸騰させるには時間がかかりますし、成長過程として低いところにありますのでまだ成長余地は大きく、バブルが破裂するような場面ではないと思います。中国はまだまだ大きな潜在力を残していると思っています。


薛軍

ユーロ圏の危機や新興市場の不安定性などいろいろな要因から見ると、2012年は先行きの大変不透明な年と言われています。日本有数の証券会社の会長として、日本経済、世界経済についての見通しを伺えますか。


鈴木

問題はいろいろありますが、トータルでは私は今年をかなりポジティブに見ています。一つはアメリカの景気が回復してきていることです。失業率を見ると、9.9%であったのが8.3%まで着実に下がって来ていますから、アメリカ経済は順調といえるのではないでしょうか。ただ、リーマン・ショックで失われた800万人以上の雇用は、2年半近くかけてもまだ回復できていません。NYダウはリーマン・ショック前を上回ってきてはいますが、必ずしも全面的に楽観できるわけではありません。ヨーロッパでも、ECBが昨年12月に3年物の大量の資金供給を行いました。ユーロ圏危機はソブリンの問題ではあるのですが、結局は金融機関の経営問題であり、皆が恐れているのは金融機関の突然死です。それが、ECBの潤沢な資金供給によって、流動性に関して安心感が広がりました。また、ギリシャもいろいろな融資条件を受入れており、それが本当に実行されるのかという問題はあるにせよ、最も厳しいところは過ぎたのではないかと考えています。
こうした外部環境の中、日本の株式市場は久しぶりに賑わっています。外国人投資家も、1月から2月前半までで6,000億円程度買越しました。為替も、円高は一応ピークを打ったのではないかなと思います。今年は発射台が低いこともあって、日本市場は右肩上がりの動きになっていくのではないかと考えています。加えて、20兆円近い復興資金が真水で出てきますから、このインパクトも大きいと思います。


薛軍

先ほど経済はバブルを膨らませながら成長したといわれましたが、リーマン・ショック以降、世界のあちこちで現代的な成長のスタイルは終わったのではないかと、いわゆる資本主義の終焉という問題が提起されています。化石燃料を完全に代替できる新しいエネルギー資源が開発されたとしても、もう高度成長はできるものではないと考えられていますが。


鈴木

エネルギーに関して一番問題になっているのが、原子力発電の問題です。最悪の場合にコントロールが効かないという大きな問題を抱えていることは確かですが、今すぐそれに代わるものはあるのかというとそれはないわけです。したがって、原子力とは並存して行かざるをえません。将来的に、例えば風力やソーラーでの発電を増やすとしても、あるいはまったく違うエネルギー源が発明されたとしても、原子力に最大限の安全対策を施して併用していくのが、現実的だと思うのです。液化天然ガス(LNG)の利用を増やすというのも、二酸化炭素を大量に排出するものは抑制するという論調からは逆の方向に振れているように見えます。行くたびにビルが増えていた上海では、電力が不足してビルを煌々と照らすことができないという話を聞いたことがあります。中国も電力に関しては、需要の伸びがあまりに速く供給が追いつかないようです。電力というのは、水や空気のように生活に不可欠なものですから、突然止まったりすると大変なことになりますので、供給にある程度の余裕も必要です。エネルギーに関し、どの方向を目指すべきかという哲学は必要ですが、今あるものを全部否定してしまうのは困難ですし、またするべきではないと思っています。


川村

世界経済全体が伸びていくと同時に、調和を図っていこうという動きも最近は非常に強くなってきたと思います。こうした中で、中国では和諧社会ということが盛んに言われています。ところで、大和証券グループの「大和」の意味を繙くと、これは「和諧」ですよね。

薛軍

そうですね。平和は、小さい和、中和。御社の名前である大和は、和諧の社会、社会全体の平和ですね。


鈴木

そうですね。


薛軍

バブルのようなスピードの経済成長は、もう成立しないと思うのです。むしろ、エネルギーの面等を見ても、持続可能な発展あるいは調和のとれた社会の実現がとても大事だと思います。


鈴木

その通りだと思います。ただし、中国と日本とでは成長の水準は違います。中国における安定成長は、将来的に5、6%程度になるのではないかと考えています。それでも日本からすればものすごい高成長です。やはり成長過程にあるところは全然違います。しかし、中国が10%成長を続けていこうとすると、どこかがいびつに成長し歪みがくることは避けられません。したがって、中国が調和のとれた社会を目指すのは当然と思います。国の行き方はそれぞれですが、各国とも調和のとれた姿を目指していかなければならないのではないでしょうか。


薛軍

今は日本の大学に勤務していますが、昔は日本の会社に勤めていました。その経験に照らすと、日本の大学生はとてもおとなしいと思うのです。ところが、彼らが一旦会社に入るとすさまじいパワーを発揮します。会社組織が、どのようにしておとなしい大学生を企業戦士に変えることができたのかを、お聞きしたいのですが。

鈴木

現在は、少し変わりつつあります。それでも、我々の時代と今とでは少し違いますが、若い人が1年も経たないうちにすごい活躍をするのを目の当たりにします。それには、お互いの仲間意識、横の繋がりという面が強いと思います。その関係の中で、上司は下の人間をいかに育てるかという感性が育まれるのです。先ほど「和諧」という話が出ましたが、こうした関係性を通じて会社に対するロイヤリティが高まってくるのです。それをどの企業も意識しています。私が会社に入ったときは、朝から晩まで働き、帰って寝るだけという、要はお金を貰うからには身も心も会社に捧げますという時代でした。今はそこまではいきませんが、伝統として会社は社員とともにという面があります。一時そういう関係性を今の人は好まないというので、こうした伝統が追いやられていたのですが、かなり復活してきています。やはり、会社の原点はロイヤリティにあるのだなと思います。日本の会社には、社員の強い結びつきを作ることによって、人間の能力を引き出していく力があると私は感じています。


川村

最後にお聞きしたいのは、大和と中国の縁が30年を超えるにいたり、また2012年は日中の友好関係が結ばれて40年という記念すべき年になるわけですが、30年後あるいは40年後といった遠い将来を考えたとき、今後の日中間の経済面での交流、付き合い方についてどう考えておられますか。


鈴木

中国は高成長を続け、なお大きな成長の余地を残しています。大和証券は、今、アジアをホームマーケットとして考えるコンセプトで動いています。そして、アジアの要はやはり中国ですから、中国には多くのヒト・カネ・モノを投入していきます。日本にとっての幸運は、世界で一番成長しているのが、中国を中心とするアジアであり、それが地理的に非常に近いことです。また、日本が歩んできた道は、どこの国にとっても、ある意味で非常に参考になると考えています。こうしたら上手くいく、こうしなかった方がよかったということをも含めて、一緒にいろいろなことを研究していけるのではないでしょうか。一方で、日本には個人の金融資産を含めた資金が潤沢にありますので、アジアや中国の企業が資金調達したいときには、ジャパンマネーは大きな魅力になってくるでしょう。ですから、地理的にも近いし、きちんとした関係を結んでいけば、30年後、40年後も良い関係でいられると私は思っています。


川村

大変勉強になりました。本日はお忙しい中大変ありがとうございました。


薛軍

ありがとうございました。


鈴木

ありがとうございました。


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