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第12回 民間同士、政府同士がウィン—ウィンの関係を保つことが交流の深化に

ゲスト 樋口 武男氏 大和ハウス工業株式会社 代表取締役会長

動画を見る(33:07)

対談動画(ダイワインターネットTV)

中国のいい点は政策運営のスピードであり、メリットといえるが、逆に言えば規制はすぐに変わる。中央や地方政府の政策運営には、つねにアンテナを張っておかねばならない。 グローバルに事業を展開していく上では、先入観で物事を判断せず、現地でしっかりコミュニケーションを交わし、ネットワークを構築するのが第一だ。 さらに民間同士だけでなく、政府間の連携・コミュニケーションをも密接にし、国同士ウィン—ウィンの関係を保つことが大事である。それによって、民間企業の関係がさらに深まっていくという連鎖が、交流を深めるには必要だ。
川村

今回は、大和ハウス工業の樋口武男会長をお招きしています。初めに、中国で住宅建築に進出するようになったビジネス展開のきっかけ、あるいは経緯についてお話を伺いたいと思います。


樋口

中国とのつながりは、当社の創業者が1972年の日中国交回復の年に、中国の段通や竹箒といったような特産品を大量に仕入れてきたことに始まります。その後、1985年に外国人用の社宅として、上海で戸建住宅やマンションを造り賃貸経営をスタートさせました。それを、北京、天津、大連と拡大してきたのです。環境ビジネスを含めた他の分野に展開してきたのはここ5、6年のことで、大連で「頤和香樹」、「頤和星海」といったプロジェクトを中国企業と一緒にやっています。


川村

中国と日本とでは商売の仕方、慣行に違いが多い中で、苦労されたことも多いと思いますが。


樋口

今は中国が一番大きいのですが、グローバル展開の一環でいろいろな国で仕事をしてきました。政治も違いますし、どこの国へ行ってもいい面と悪い面とが両方あります。中国のいいところは何かと言えば、共産党一党支配ですのでスピードです。高速道路の整備でもあっという間に日本を追い越してしまいました。新しい街を造るのでも、新都心として造られた蘇州園区もそうですが、全部無電柱になっています。また、蘇州園区の40%は緑地帯です。中央政府も地方政府も環境にものすごく神経を使っています。そうしたスピードは非常にメリットのあるところなのですが、逆に言えば、規制がパンと変わるわけです。ですから、我々としては、良さは良さとして動きに乗っていくとしても、一方で中央、地方とも政府の方針を早くキャッチしておくことが大事だと思います。

薛軍

中国政府に加え地元には地方政府の規制があり、外国人投資家にとっては理解しにくいところが多かったのではないかと思うのですが、どうでしたでしょうか。


樋口

一例で、急に建築規制が出ます。工事が後半になった頃に、例えば「雨戸を付けなさい」となる。工事がかなり進んでいると、二重の作業になりますよね。また、金融規制もいっぺんにパッと窓口が閉まります。ですから、地方政府とよくコミュニケーションを交わすということが大事だと思います。


川村

中央政府の規制と地方政府の規制とがぶつかるようなことはあるのでしょうか。


樋口

中央政府と地方政府とがぶつかったら、それは中央政府が勝つでしょう。圧倒的な権力を持っているわけですから。だから、両方の政策の進め方をいかに早くキャッチするか、ネットワークを張っておくということが大事だと思いますね。


川村

日本における80年代から今日に至る、バブルの発生、ピーク、崩壊、そして収拾といった中での体験はどんなものだったでしょうか?

樋口

創業者の経営哲学は、何をしたら儲かるかという発想で新しい事業を起こすべきではないということでした。新しい技術で新しい商品を作り、新しいマーケットを広めていく、そして、それが世の中の人々に役立つものかどうかをまず考えるべきだとしていました。倉庫、仮設住宅に使われたパイプ製のパイプハウスが創業商品でしたが、これもその考えから出たものです。1950年のジェーン台風では、家も何もかも倒れたあとに竹やぶと稲が倒れず、そのまま残っていました。竹や稲をみると、中は空洞で丸い、これが強さの秘密ではないかと気づいたのです。また、建物の材料として森や山の木々をどんどん伐採していくと、水害その他の災害を大きくします。そこで、木に代わる材料として鉄を選び、パイプを構造用鋼管として使う建物を開発したのです。現場の知恵をもとに、世の中の役に立つ、新しい独創的な商品作りをしたわけです。その次が、昭和34年のミゼットハウス(プレハブ住宅の原点)ですね。創業者が川で鮎釣りをしているときに、子どもが夕方まで帰らないで遊んでいるので「帰って勉強せんか」と言うと、「家に帰っても勉強する部屋はないし、自分の居る場所もない」と言うので、「この子らに勉強部屋を作ってやらないかん」という発想から商品化につながっていったのです。徹底した現場主義ですよ。だから、現場に出ていろいろな人に会いにいきますし、若い人にもそれを推奨していました。それが、現場の声として、トイレや風呂がつけられないかというお客様の要望を汲み上げることになり、プレハブ住宅の開発につながるのです。そして、1962年にダイワハウスA型というプレハブ住宅を出しました。発想の原点が現場にありますから、バブル時にも、土地さえ買っておけば間違いないというやり方を当社はとらず、大損することもありませんでした。


川村

将来の実際の需要を見極め、消費者、ユーザーのためになることを追求する、短期の売買で儲けようということなく、本当の需要に基づいたビジネスを展開してきたので、バブルのもたらすプラス面もマイナス面もあまり影響しなかったということですね。


薛軍

マクロ経済の面では、日本でバブルが形成されるときと中国の現在の状態に非常に類似点が多いのです。日本の教訓を活かさないと、中国は必ず日本の不幸の後を追い、悲惨なことになるという議論が、中国国内でも日本でも多々見られます。この点についてはどうお考えですか。


樋口

日本より中国の方が貧富の差は激しいと思います。沿岸部の人口が6億人を超えたと言われていますので、住宅はおそらく2億戸ぐらいは必要でしょう。ところが、1998年以降今までに建設された住宅は約8000万戸強ですから、まだまだ需要は強いはずです。


薛軍

都会部に住んでいる中国の若者は、一生お金を貯めてもなかなかマイホームは買えないのです。そうなると社会問題にもなります。日本でも、大都会で昔同じ状況があったと聞きましたが、すると例えば仕事への意欲が小さくなる、社宅がないと人を募集できないとか、弊害が出てきませんでしたか。

樋口

日本でも確かにそういう時期がありましたが、今社宅を持っている会社は少ないですよ。持家もしくは民間の賃貸住宅に入る人が大半です。また、最近の若い人は1カ所に住み着くよりも、ライフスタイルに応じられる賃貸の方がいいという人が増えている傾向がありますね。それで、我々の手がけている、賃貸住宅などへの需要は意外と多いのですよ。


薛軍

今の中国の普通の意識からは、マイホームは必ず押さえないといけないものですが、それが手に入らないとなると生活スタイルなどが変わってくるのではないかと思うのですが。


樋口

我々が中国で今住宅を建てているところは沿海部が中心で、富裕層の方の購入が圧倒的に多いのです。けれども、いずれ貧富の差もうまく収めていかなければなりません。日本の場合は、住宅供給公社というかたちで地方を含め住宅取得を後押していきました。


川村

日本はどんどん少子高齢化が進み、福祉・介護のニーズが高まってきています。中国もしばらくすると日本の10倍の規模でそういったことが起こります。高齢化社会に向けた新しい対応について伺いたいのですが。


樋口

1989年にシルバーエイジ研究所というのを作りました。病院・診療所、特別養護老人ホーム、老人保健施設、グループホーム、デイサービス・デイケア施設など、一連のものを3,000件以上も建設しています。有料老人ホームも熱海で経営しています。2011年5月に一般社団法人高齢者住宅推進機構という組織ができましたが、ここでは、従来の高齢者専用賃貸住宅とか高齢者向け優良賃貸住宅といった施設を造ってそれに入ってもらうという考え方でなく、住み慣れた自分の家で安全安心が確保できるようなサービスを提供していくという方向を目指しています。高齢になってから知らないところへ行きたくないというのは、人間の心理だと思うからです。そうすると、自分の家で安心して住んでもらえるようなサービスをどのように提供するかという研究を、もっと進めていこうというのが高齢者住宅推進機構なのです。これからいろいろな研究を日本で行っていくわけですが、高齢化が進む中国、韓国とも一緒に研究していかなければならない問題になると私は思っています。それで、日中間ではこれからいろいろと研究の打ち合わせをしましょうということになっているのです。

薛軍

中国でもそういう需要が高まっていくとみているのですね。


樋口

民間同士で実務に沿ったかたちで交流が進んでいくことは、非常にいいことです。中国も世界第2位の経済大国となったのですから、世界のマーケットを牽引していく役割があるわけです。だから、グローバル・スタンダードというかたちの中で、日本も含めて、ウィン-ウィンの関係を民—民で構築していき、その後は国と国のコミュニケーション、連携を図るというかたちで、官民が一体になって進むべき方向性を明確にしてやっていくことが重要です。これは、対中国だけでなくどこの国とでも共通事項だと思います。


川村

日本の場合、リーマン・ショックから十分に立ち直れないうちに、東日本大震災という大きな災害が来た上、ヨーロッパ・アメリカの経済も危険水域突入で、国内経済は大変な状況です。今、こういう思い切った経済対策を打てば効果があると思われるようなものはないでしょうか。


樋口

業界団体の会長として民主党に陳情に行ってきました。平成24年度の税制改正要望として、10項目ぐらいあります。最初に、今のような経済状況の中では景気活性化策というのが非常に大事ですと申しました。さらに、裾野が広い住宅関連にもう少しインセンティブを与えて、需要を喚起することを考えてください、例えば、住宅着工が10万戸増えれば40万人の雇用を生みます、直接及び間接、また誘発需要を含めると、経済効果は5兆円に上り、国の税収は6,000億円増収になりますとデータを積み上げました。それを議員の方に説明し、今は増税をするのではなく、景気を良くして経済を活性化させることによって税収を増やすというかたちを取るべき時期ではないですかとお願いしてきたのです。


川村

住宅着工は景気指標として我々も注目しています。住宅投資を刺激した場合には、需要者としてはシルバー層が多いのでしょうか、それとも結婚後5~6年で子どもができてという所帯なのでしょうか。


樋口

それについてお願いした項目もあるのです。例えば、贈与税です。住宅に関する生前贈与について2010年は1,500万円までが非課税でした。これが2011年は1,000万円、2012年は拡大されて1,500万円となります。国民の個人の金融資産が1,400-1,500兆円の巨額に上るのですから、お金を持っているおじいちゃんやおばあちゃんが、全部資金を出して子どもや孫に家を買ってやれば、今言ったような経済効果につながってくるのではないでしょうか。国の財政を痛めずともできることですので、ぜひ増額並びに延長をお願いしますと説明してきました。そもそも国民の持っている1,400-1,500兆円のお金は、税金を払った上で貯めたお金でしょう。それなのに、相続されるときにまた税金がかかってしまいます。むしろ、個人がもっと豊かになるように、子ども・孫への贈与を5,000万円まで認めて景気を活性化させた方が、雇用にもつながり、全てにハッピーとなるのではないでしょうかとお願いしてきたのです。

川村

日本の場合、世代構成がだんだん高齢化してきて、人口自体も減っていきます。そうすると、マーケット全体のパイはどうしても小さくなります。他方で、アジア、例えば中国も高齢化を迎えるとはいっても潜在的なマーケットとしてのパイは非常に大きいような気がします。


樋口

当社の夢である2055年の売上高10兆円に向かって進もうということで、事業を展開しています。しかし、売上高を10兆円にするためには、内外の売上比率を7対3にしなければならないでしょう。もちろん海外が7です。今国内の人口は1億2,800万人で、世界は70億人です。2055年になると、世界の人口は95億人前後と約25億人増えます。しかし、日本の人口は9,000万人前後に減っています。それも生産労働人口は全体の50%ぐらいになることを考えると、いきおい海外へそれだけの力を振り向けていかねばなりません。ただし、グローバルに展開するためには、派遣される人材が英語もしくは中国語を勉強しておかなければコミュニケーションも交わせませんが、当社では海外赴任希望が378名いて、そのうち「すぐにでも海外に行きたい」というのが220名いました。その中で、「3年後にぜひ行かせてほしい」という47歳の女性の管理職には感心させられました。理由に「3年後に息子は社会人として独立する。50歳からの自分の人生で、もう一度チャレンジしたい」とあったからです。頼もしいでしょう。


薛軍

2010年からの金融引締め政策で中国の不動産市場は冷え込んでいます。おそらく2012年も引締めは続けられるでしょうが、中国政府の政策についてのコメントをお願いします。


樋口

引締め政策については、日本も欧米も同じ道を歩んできたと思います。伸びすぎたら抑制する、落ち着いたらまた成長戦略を採るというふうにして、長期にわたる安定成長を考えれば、採らざるをえない政策であろうとわたしは思います。ですから、引締めがずっと続くわけではなく、また成長に向け舵が切られるはずです。つまり、マーケットはのこぎり型で成長していくということです。また先ほど触れたように、沿岸部で2億戸の家が必要なのに1998年から8,000万戸しかできていません。一時的にバブルになったことから金融が抑制されていますが、そのままでは我々も中国本土のデベロッパーも困ります。そうした企業をつぶすことはまた失業者を増やすことになりますから、政策はさじ加減を加えながら運営されざるをえず、やはりマーケットは拡大していくと考えています。沿岸部はそうですし、農村部ももう一つの大きなマーケットとなるでしょう。一気には進まないでしょうが、これからの農村部での住宅・住環境の整備を考えると、一つの方策として、日本の例でいうところの住宅供給公社や住宅公団というような制度を導入するなど、なんらかの政府の手助けも加わって、進んでいくものと思います。


川村

最後に定番の質問ですが、今後の経済、文化も含めて日本と中国との交流をさらに発展させていくために、ぜひ留意したいあるいはすべきであるという点について、ぜひ伺いたいのですが。


樋口

これは、お互いに先入観で物事を判断するのではなく、現地へ行ってコミュニケーションをしっかり交わすということが必要です。それに加え、中国だけの問題だけでないですが、政府間の連携・コミュニケーションをよく取ってもらい、手をつなぎあってウィン—ウィンの関係が保てるようにすることが大事です。それによって、今度は民間企業もそれぞれに交流が深まっていくという連動がないと、なかなかうまくいかないと思いますね。

川村

本日はご多用の中大変ありがとうございました。


薛軍

ありがとうございました。


樋口

ありがとうございました。


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