第5回 新たな発展過程への切替えを迫られる中国経済

ゲスト 渡辺 利夫 氏 拓殖大学学長

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対談動画(大和スペシャリストレポート)

中国は、台湾や韓国、日本と同様に、政府が強いリーダーシップの下産業政策を遂行し、発展が始まった。鄧小平の改革により国有企業が効率的に動き出し、その後の経済発展は日本と異なり外資主導型で進んだ。今後は、外資系企業の民族企業への転換、また成長方式の転換と成長の質の向上が中国経済の安定的成長のポイントである。

川村

渡辺利夫先生は、アジア経済の権威であるとともに、広い意味でのリスク管理についても深く研究をされています。拓殖大学と中国との関係も長く深いものがあります。


渡辺

私は開発経済学の理論体系を作りたいと考えてきた。1985年に、当時の経済企画庁(現内閣府)が、アジア太平洋についての研究会をやろうということになり、その研究会のメンバーとして、生まれてはじめて中国に行った。広州、上海、北京と回って歩いた。これは、私には大変強い印象だった。鄧小平の改革開放政策が始まって間もない頃だった。農村もいくつか見せてもらった。過去の農業生産高を毎年更新するダイナミックな時期であった。技術の変化はないのに、制度を集団的農業から個人・家族農業へと変えただけであれほどに巨大な変化が起こるということは本当に驚きであった。巨大な国だし、中国も研究対象の一部に入れなければ私の開発経済学の体系は完成しないと思った。中国の発展方式の魅力に取り込まれたように、以後毎年のように訪中した。いろんな会議にもご招待いただき、ことあるごとに出席した。

川村

中国以外のアジアの途上国と中国の発展過程の特徴で違う点はどこか?


渡辺

基本形においてそんなに変わっているものではないと思う。経済発展には一つの王道があるのみだと信じている。熟練労働者と企業家を蓄積し、優れた経済官僚を作っていく、そういう人的資源の能力向上がまず肝心です。それに技術進歩とそれに伴う生産性向上を図らねばならない。こういったことを考えてみると、中国が台湾や韓国、あるいは日本の過去と比べ、特段違ったことをやってきたようには思えない。ただ、規模が大きいので周辺諸国に及ぼす影響は大きいということは、中国の大きな特徴ではあるとは思う。


川村

アジアの元気のいい国を見ると、政府のリーダーシップを非常に感じる。


渡辺

かつての日本も政府が強い産業政策を持って、企業や産業を引っ張り上げる、ある種のステイトキャピタルだ、というイメージで捉えられてきた。日本はそういう時期を経ている。中国はまさにその典型だと思う。革命以前の中国の成長は欧米の列強を中心とした企業や四大家族官僚資本によって主導された。彼らが全国の製造業から流通業、金融まで全てを独占した。それ以外は全て農村だった。人民共和国の出発以来は国有企業主導の発展へと変わった。これは企業家や労働者のインセンティブを引き出すということには成功しなかったものの、国有企業という巨大な工業化の塊ができたことには大きな意味がある。そして、国有企業を効率的に展開するためのシステムを鄧小平時代が作り出し、一挙に動き始めた。実は日本や韓国も同じである。


薛軍

日本の従来の中国研究者は今60代以上で、もともと中国語を勉強し、農村部で研究をスタートさせて、だんだんとやってきているが、学長の場合はそうではない。韓国の開発経済学からスタートしており、欧米流からだ。渡辺流の中国研究の特徴を簡単に教えて欲しい。

渡辺

中国研究はかなり特殊な世界である。まず中国語を取得し、中国に何年か滞在して中国の文化も理解し、そしてチャイナスクールという言葉もあるように、中国だけを生涯の唯一の研究対象にする。こういう人がほとんどである。もし私に多少のアドバンテージがあるとすれば、韓国研究から入り東南アジアを勉強して最後に中国にたどりついたという意味で、中国を他の国と相対化できることだ。


薛軍

その延長線で、日本での中国研究の評価はどのようなものか?


渡辺

日本の中国研究には長く深い伝統があって、研究蓄積の総量はかなりのものだと思う。だが、伝統的な中国研究が現在の中国研究の中に生かされているかどうかはかなり疑問に思う。現在の中国研究は必要以上に細分化されている。中国の地域別、産業別の専門家といった、切り刻んだ中国研究をやっている。中国全体がどう動くかということは、これらの研究を集計しても出てこない。結局中国全体の将来のことは、中国を大きく外から見ている人でないと理解できなくなってしまう。中華人民共和国の全体像をつかまえるようなシンポジウムは、現在の日本では学会報告がほとんど受け付けられないのではないか。


薛軍

これまでの日本の高度経済成長期と、今現在の中国の経済成長とで、その間の政策にどういう特徴があるか?


渡辺

日本の経済成長は、非常に長い発展のための先行期間がある。江戸時代から明治を経て、長い助走期間があって、ある時期から急速な成長が開始された。中小零細企業を含めて非常に厳しい競争をしながら今日を築いてきた。日本の経済の発展の中心は民族企業だ。外資は「黒船」だという印象が強かった。民族企業を強くしてからその後に外資を導入しようという考え方でやってきた。対照的に、中国の成長は外資主導型だと思う。日米はもとより、香港や台湾の企業、東南アジアの華僑系の企業が香港を通じて大量に入っていった。リーディング産業は変化しているが、いずれも外資依存型である。その外資も、輸出加工貿易中心。アメリカという巨大なマーケットに輸出することによって、中国経済が回っている。その生産の主体も外資系企業である。今後の課題は、外資系企業をいかにして民族企業に転換していくかである。民族系企業に切り替えていく政策によって、だんだん外資系企業にとっての中国の魅力は、マーケットとしての魅力に移っていく。製造業の中心は民族系企業にならなければなるまい。

川村

第11次計画からも出ているが、今の第12次計画を見ると、国内のマーケット消費を中心とした内需に切り替えている。


渡辺

成長方式の転換は第11次計画のときから言われてきた。つまり、中国の家計消費、内需が低すぎる。したがって高成長を実現するためには投資主導ならざるをえない。過剰投資により、どうしても投資効率は下がっていかざるをえない。中国にとって大変不幸なことにリーンマンショックにより、輸出が減少し、中国経済全体がダウンスイングに陥ったので、一段と投資主導型経済を強めることになった。その結果実現された高成長は世界経済全体にとっても、ありがたいものではあった。しかし、中国にとって見れば、成長方式の転換を今一度やり直さなければならないことを意味する。今度の全人代で発表された第12次計画5カ年計画では毎年の実質年間成長率は7%だということになった。成長方式の転換と成長の質の向上が政府の主要任務だ、という。これをクリアできるかどうかが中国の安定的成長のポイントだ。やはり、貧困層の所得の拡大を図らないと、どうしたって内需は拡大しない。地域間の大きな格差も是正しなければならない。なぜならば貧困階層の多い地域ほど消費性向が高いので、そちらに所得を再配分していかないと、全体としての内需は当然上がらない。ところが現実の中国の分配を見ていると、改善しているようには思えない。農村では最下位20%の所得階層の家計は赤字である。格差はむしろ拡大していく。ジニ係数で表される所得分配で見ると、中国の不平等度はラテンアメリカ諸国より高い。


薛軍

学長は、日本が後発先進国だと初めて提唱された方である。今の中国はいろんな意味で後発性がある。日本のような後追いで先進国に追いつくことはできますか?


渡辺

十分可能だ。中国のGDPは日本を上回った。一人当たりGDPがどれくらいになるか、楽しみに見ている。中国は、中央が非常に権力が強くて大きく、地方は権力が弱く小さいと見なされがちだが、これは全く間違った見方だ。むしろ今の中国で圧倒的に大きな権力を持っているのは、地方である。中国の高度成長は、一面、地方の暴走によって成ったと言いたくなるほどである。所有権のはっきりしない土地を地方政府が非常に安い補償費で買い上げこれを開発業者に造成させて、そしてそこに内外資を導入して発展させようというわけだ。そのお金が、地方にはある。このお金は予算外収支であって、地方、議会、住民のチェックを受ける必要のないお金である。それゆえ中国は野放図な社会主義市場経済となっていかないか、と心配している。地方と中央というキーワードが、今後の中国を考えるキーポイントになるのではないかと思う。


薛軍

経済だけで言うと、政策が大切だ。市場というキーワードをどれだけ理解するかがポイントになる。


渡辺

中央政府の管轄企業(中企)は100から200社あるが、手厚い金利的支援を与えて寡占的・独占的企業を今、中国は育成しようとしている。国有企業全体をリストラクチャリングするという方針をやめている。中企が中国のリーダーになっていくだろう。世界の売上高ランキングを見ると、そういう企業がたくさんある。少し度が過ぎていると思う。先進国であれば当然どこの国でも独占禁止法を持っていて、かなり厳しい監視を続けているが、その点は中国は少しルーズだと思う。ここは是非、中国の政策当局者も先進国の失敗や成功のケースを見ながらさらにやってほしいと思う。


川村

かつて日本は投資を抑制して経済のパラダイムを変えていかなければいけないのに、引き続き従来方式を継続した。70年代前半のドルショック、オイルショックと立て続けに続いたときに、相も変わらず60年代までの高度成長路線に沿って、乗数効果をほとんど見込めないのにドンドン投資してしまった。それが将来の不良債権になり、成長の足枷になってしまった。日本はそういう大失敗をした。中国も、政策は配分のほうに向かっても、実際の経済が相変わらず投資に向うとなると、日本の二の舞を踏みかねない。そのところに留意すべきと思う。

渡辺

中国政府はリーマンショック以降の景気刺激のために、非常に金融を緩め、大規模な財政出動を行った。それゆえにお金が市場でだぶついてくる。大企業に金融的支援を集中させたわけだが、もう大企業の設備は過剰になっているから、金融支援を受けた大企業は、これ以上の投資をしても過剰設備となり、投資の限界効率が下がることはわかっているので、株や不動産のほうに手を出していく。それが不動産価格の暴騰であったり、最近の物価上昇の原因になっているんだろうと思う。日本の失敗をも鑑みて、あまりに少数の独占寡占企業を作っていくことは、少なくとも第12次計画のあいだのどこかで直していかないといけないのではと思う。


川村

次は話題が変わるが、先日の東日本大震災の復興計画が検討されているが、民間企業の立ち上がりが非常に早かった反面、国全体のものはすごく月日が経ってもよく見えなかった。国全体の経済危機管理のありかたにかなり色々課題があると思うが?

渡辺

全く同感。日本は今まで自然災害で悲劇を何度も経験してきたが、あれほどまでに広域の大震災は初のことだと思う。そういう場合、司令塔、つまり官邸に危機管理と情報収集を徹底して一元化し、初動に間違いを犯さないようにするという原則がほとんど生かされていなかった。関東大震災ではすぐに帝都復興院を立ち上げて、省庁横断的な司令塔を作り、一挙に復興を進めた。東日本大震災の場合は、もうこんなに時間がたっているのに、10万人を超える人たちがあの非人間的な避難所での生活を余儀なくされている。政府の対応がいかにおかしいかということはわかる。率直に言って政治主導、官僚排除というのがスローガンだから、要するに素人が非常事態に立ち向かっている。最悪のパターンだ。おそらく中国だったらこんな間違いは起こさないと思う。そういう意味では日本の失敗からも中国は勉強してほしい。


川村

少なくとも30兆円といわれる巨額の復興資金をどうするんだ、という議論については具体的な方針がまだ出てこない。


渡辺

第二次補正予算の策定をこんなに待たせている、とんでもないことだ。平成に入ってこれだけ長いデフレが続いてきた。現在の日本は巨大なデフレギャップを抱えている。つまり日本は現在、企業の設備も労働力も大変な余剰状況にあるから、形態は何であれ相当大きな資金を投入しても、乗数効果は非常に大きなはずだ。乗数効果が1以下なんてことは絶対ありえない。復興への需要が高まっているのに、そのお金の投入をなぜこんなにまごまごしているんだと思う。平時の感覚のままで、危機というものをわかっていないのではないか。


川村

「政治主導」という感覚的な言葉と、実際の組織として機能させることは全然違うと思う。官僚が嫌なやつだとか偉そうだというのは感情論であり、優秀だということは別の話だ。メディアも含めて、このあたりの冷静な分析がない気がする。


渡辺

メディアの報道も、「がんばろう日本」ばかりで、被災地の苦しさを伝えるだけ。どういう建設に入るかという、ジャーナリズムからのプロポーザルがいくつかあってしかるべきだと思う。


薛軍

教育の話を少し聞きたい。今、私は日本の教員だが、学生は一言で言えば元気がない。全般的に暗い。海外に行きたくないであるとか。学長の立場から、日本の教育の改革を含めてお話をいただきたい。


渡辺

高等教育が大衆化したということだ。二人に1人以上、同年齢の人口の50%以上の大学進学率になっている。高等教育が大衆化したのであれば、どうしても学生の学力は低下して行かざるをえない。それから、若者の気分が内向的になっていることは事実だと思う。文部科学省も危機意識を持ち、我々の大学でも、高等教育大衆化時代の学生の実情に見合うカリキュラムの編成を今年いっぱいで仕上げる予定だ。いずれは学部まで再編するというラディカルな変革をしようとも考えている。だが、大学は企業のように、トップの意思決定によって全体が素早く動くような組織形態になっていない。薛先生のおっしゃっている感覚には全く同感だ。私たちもモデルを作ろうと今必死だ。中国も、これからどんどん発展して誰しも大学に入れる時代がすぐ来ると思う。中国に何がしかのことを言いうるとすれば、そうなった場合の備えを、日本の失敗の経験から大いに学べるのではと思う。


川村

今後の日本と中国の特に経済面、学術面、文化面の交流は長く、深く、広くしていかなくてはいけない話だと思うが、どういう点にお互い留意していかなくてはならないとお思いか?


渡辺

経済についていえば、両者がウィンウィンであって始めて成り立つ取引行為だから、企業の自己責任の下で中国のマーケットをよく勉強して、自己の判断でやっていけば良い。学術、あるいは大学等の交流については、かつてに比べれば格段に広がっている。これはやはり、民間で大いにやるべきだ。私どももいくつかの中国の大学と提携しており、長期留学の学生交流プログラムを毎年のように実行している。政府には、もう少し留学生への手厚い支援をしてほしい。留学生30万人計画を言い出して、大いに結構なことだが、他方ではこれを「仕分け」の対象にしたりしている。実はそのために留学生の支援ができなくて私も大変困っている。「仕分け」のために赤字を背負わされている大学は結構多い。せめてその程度のことは実行してほしい。


川村

まだまだ尽きない話はあるが、お忙しい間を縫っていただきありがとうございました。


薛軍

ありがとうございました。


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