インパクト・インベストメント(Impact Investment)は、社会的な課題の解決に寄与することを目的とする投資で、広義のSRI(社会的責任投資)と考えることができる。2009年9月の第5回クリントン・グローバル・イニシアチブにおいてグローバル・インパクト・インベスティング・ネットワーク(GIIN)が正式に立ち上がったのを機に、世界的にそのコンセプトが広く認知されるようになったとされる。伝統的なSRIとの違いは、その投資が貧困や医療、教育などの社会的な課題の解決に与えるインパクトに注目している点であり、投資家がその目的や効果を十分に理解し、投資するという特徴がある。
インパクト・インベストメントの代表的な事例として国や国際機関の債券への投資がある。社会問題の解決には資金を必要とするが、世界各国の財政事情は厳しくなっており、公的援助資金には限界があろう。また、資金はすぐに必要であるのに、公的援助資金の拠出には時間がかかり、タイムラグが生じることもある。民間の資金を集める方法としては寄付や募金などの慈善活動があるが、やはり限界があろう。インパクト・インベストメントは、経済的な利益を求める投資において社会的問題の解決に寄与する手法として広がってきている。
日本におけるインパクト・インベストメントの事例には、社会貢献型債券の販売がある。2008年3月に開発途上国の子どもたちにワクチンを提供することを目的として、「予防接種のための国際金融ファシリティ(The International Finance Facility for Immunisation)」を発行体とする債券が販売されたのが最初の事例で、ワクチンの提供を目的としていることからワクチン債と呼ばれている。また、2009 年11 月にはマイクロファイナンス機関への投融資を目的とするマイクロファイナンス・ボンドが販売された。マイクロファイナンスは、貧困層向けの小規模金融サービスの総称で、貧困問題の解決の手段として広がってきている。1970 年代の中頃、貧困層の自立を支援するため無担保で少額の融資を行うという取り組みが始まり、これをマイクロクレジットと呼んでいる。その後、融資だけでなく、預金や送金、保険などのさまざまな金融サービスが提供されるようになり、総称してマイクロファイナンスと称するようになった。また、マイクロクレジットの創始者とされるムハマド・ユヌス氏と彼が設立したマイクロファイナンス機関であるグラミン銀行が、2006 年のノーベル平和賞を受賞したことで、マイクロファイナンスが広く世に知られることとなった。
そのほかにも、さまざまな社会貢献を目的とする債券が販売されている。そのうちのいくつかを紹介すると、地球温暖化対策事業を支援するグリーン・ボンド、水関連事業を支援するウォーター・ボンド、アフリカにおける教育関連プロジェクトを支援するアフリカ教育ボンドなど、環境や教育など多様な社会貢献を目的とした債券などがある。
(2012年10月31日掲載)
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