持株会社化は戦略策定機能の強化手段

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  • マネジメントコンサルティング部 主席コンサルタント 弘中 秀之

王子ホールディングスが今年10月1日に持株会社体制に移行し、日本製紙グループ本社が来年4月1日に持株会社体制を解消する。この持株会社体制をめぐる製紙業界トップ2社の動向が注目を集めており、持株会社体制が良いかのか悪いかのという単純な議論を耳にすることもある。もちろん、持株会社体制という組織論は、会社が定める経営戦略や中長期の方向性の下に議論されるものであり、持株会社が単純に良い、悪いというものではない。ただし、持株会社体制に移行した会社のその後の経営状況は気になるものである。そこで、過去5年を遡り、持株会社体制に移行した上場会社を抽出し、その後の経営状況の分析を試みた。

持株会社化した会社の経営成績

分析にあたっては、経営統合等を伴わず単独で持株会社体制に移行した136社(金融を除く)を抽出し、売上高、営業利益の変化から年平均成長率を計算し比較した。持株会社体制移行前の年度末決算と直近の年度末決算のデータを用いて比較可能な89社を対象としてグラフ化したものが下の図1である。

図1 過去5年間に持株会社化した会社のその後の収益の成長性図1 過去5年間に持株会社化した会社のその後の収益の成長性

出所:QUICK Astra Managerよりデータを抽出し、当社作成

この5年間は、2008年9月のリーマン・ショックを始め、欧州債務危機等の経済に大きな影響を与える特殊事情があったため、2007年度や2008年度に持株会社体制に移行した会社は、持株会社化以降の成長性という視点で見ると平均成長率が低くなってしまっている。一方で、低い利益率の時に持株会社化した会社は、その後の業績回復により平均成長率が高く表れている面はあるが、持株会社体制に移行し、着実に収益拡大を推し進めている会社が存在することがデータ上から見てとれる。

持株会社化した会社のM&A実績

次に、同期間で持株会社体制に移行した136社のうち、持株会社化の主要な目的のひとつとして挙げられることの多いM&Aの実施件数(※1)を調査した。

表 持株会社体制に移行した会社とM&A実施状況
表 持株会社体制に移行した会社とM&A実施状況

(※1)持株会社体制移行後(当該年度含む)から2012年度までに対象会社(配下の子会社を含む)が行ったM&A(買収、合併、事業譲渡を対象とし、売り側と買い側の両方を含む公表ベース。グループ内の取引は除く。)の件数を、MARRデータベースを用い調査した。

結果は、上の表のとおりである。当然の結果ということもできるが、持株会社体制移行後、年数を経るごとにM&Aを実施する会社が増加する傾向となっている。ここでは、詳細データは割愛するが、5年前に持株会社体制に移行した会社28社のうち、持株会社化以前の5年間にM&Aを実施していた会社を調べたところ19社であった。持株会社体制移行後、M&Aを実施した会社が増加している点は、持株会社化の目的と一致しているとも言えるが、それよりも、M&Aに積極的な会社は、持株会社化以前からM&Aを推し進めている傾向であることが特徴的であった。


持株会社化後、収益を拡大した会社とM&A実施件数の関係
では、持株会社体制に移行後、M&Aをうまく活用しながら、収益を拡大させている会社はあるのであろうか。持株会社化以降の年平均の売上高成長率、営業利益成長率がともにプラスであり、かつM&Aを実施した主な会社を抽出したのが次の図2である。

図2 持株会社化以降に増収増益を続ける主な会社とM&Aの関係
図2 持株会社化以降に増収増益を続ける主な会社とM&Aの関係

出所:QUICK Astra Manager、MARRデータベースよりデータを抽出し、当社作成

これらの会社は、現時点では、持株会社体制に移行後、M&Aも実施しながら、収益拡大を果たしていることが、開示データによる分析からうかがえる。内訳をみると、医療、医薬や介護に関係する事業を営む会社が多いことがわかった。これは、現在の日本において成長が期待できる限られた市場において、積極的な戦略を打っている会社が多いとみることもできるのではないだろうか。また、医療や医薬、介護関連以外の会社においても、持株会社体制を活用し、旧来の事業から新規事業へのシフトをM&Aを活用しながら進め、順調に業績を拡大している会社もある。


これらの事例を概観してみると、改めて会社が定める戦略や中長期の方向性の大切さに気付かされる。持株会社体制に移行することで、持株会社による全社最適での戦略策定機能がより強化され、成長市場への経営資源投入や、事業ポートフォリオの見直しなどの意思決定が行いやすくなり、企業間の競争力に差が出てくることも考えられる。会社が戦略策定機能をより高める手段として、持株会社体制を活用しているとみることもできるのではないだろうか。

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