2017年02月16日
ロシア極東のハバロフスク地方のウェブサイト(https://www.khabkrai.ru/)を見ていると、時々面白いニュースが登場する。2016年の上半期にハバロフスク州への外国人旅行者が対前年同期比8割近く増加したというもの(2017年1月27日の続報で、通年では15%増となった)や、極寒の中、新年の宗教行事として行われる水浴のニュースなどだが、これらに交じって、最近では金融サービスに関する情報が散見されるようになっている。
ハバロフスク地方はロシアの極東連邦管区に属する9つの連邦構成主体の1つ(以下の地図で赤く色を付けた場所)である(参考までに、シベリア鉄道の始発駅として知られるウラジオストックはハバロフスク地方の南の沿海地方に位置する。ハバロフスク地方全体の人口は133万人で、地方行政の中心はハバロフスク市である)。

2016年6月17日の新着情報として、このハバロフスク地方政府が郵便銀行のサービス展開に協力することが伝えられている。これによると、ハバロフスク地方には28の金融機関が存在するが、地方部では支店数が激減しており、ハバロフスク地方にある233地方自治体の内、138の自治体には銀行の支店もATMもない。送金などのサービスは郵便局窓口で提供されているものの、預金口座の開設や融資などは扱われていない。そこで、これらの自治体の約10万人の住人に対して、郵便銀行が郵便局内で銀行サービスの提供に乗り出した、というわけだ。郵便銀行はロシア郵便と大手商業銀行が出資する銀行である。ハバロフスク地方政府は、郵便銀行が域内でサービス網を構築し、住民の利便性を高めてくれる代わりに、社会保障費の支払などにつき郵便銀行を通じて行うことを検討する、としている。
一方、2016年11月30日の新着情報では、ハバロフスク地方の遠隔地で次々と金融アクセスの改善が進められている様子が伝えられている。VTB24銀行が2016年末までに複数個所でATMを設置すること、ガスプロムバンクやロスバンク、極東銀行が郵便局に端末を用意し、各銀行のカードを利用して現金の引き出しや支払いができるようにすること、さらには郵便局員が携帯端末を使い利用者の自宅で社会保障費の受け取りなどができるようにする計画をロシア郵便が発表しているという。これらの取り組みについても、ハバロフスク地方政府が銀行等と協力して進めている模様だ。
ここでロシアでの金融サービスへのアクセス状況を見てみる。下表は世界銀行のGlobal Findex Databaseから、金融機関に口座を有する15歳以上の割合について、国土面積の大きな国を比較したものである(青色の網掛け部分はロシアを含む「BRICs」諸国)。ロシアの口座保有者の割合を見ると「先進国」との比較では劣後する度合いが大きいものの、BRICs内では平均的といえる水準だ。ただし、全国の割合と地方部の割合の差ではロシアは6ポイント以上開いており、地方部でのアクセスの悪さが目立つ。

もちろん、ロシアの銀行でもモバイル・バンキングやインターネット・バンキングは進んでいる。FinTechの展開も予想され、物理的な「金融デバイド」は徐々に解消されていくことも期待されている。
しかしながら、全国津々浦々にまでこうしたサービス提供が浸透するには暫く時間を要するだろうし、一般に地方農村部等では高齢者の割合が高くIT技術の発達等だけでこうした金融デバイドを解消するハードルは低くない。新興国の金融デバイド解消には、ハバロフスク地方政府のような金融包摂の取り組みが大いに参考となると言えるのではないだろうか。
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