2016年07月14日
国内市場が縮小するなか、日本企業の多くが海外市場への進出に注目している。食品産業でも例外ではなく、ヨーロッパやアメリカ同様日本食人気が高いアジア諸国も進出先として有力視されている。
食品メーカーが海外市場に参入しようとする場合、まずは輸出によって現地での商品の浸透や商慣行の理解、取引先の拡大を図り、収益が見込まれる場合には第2段階として現地生産拠点の設立を行うことが想定される。
ところが、イスラム教徒の多いインドネシア、マレーシアの食品市場に関しては、日本からの輸出額は少ないものの現地生産によるビジネスチャンスはあるような動きが見られる。
図表1は日本からの加工食品の輸出額を示している。2014年度のベトナム、タイ、シンガポールへの輸出額が増加傾向であるのに対し、インドネシア、マレーシアの2ヵ国へは横ばいで推移している。また輸出額も前述の3ヵ国が60億円以上であるのに対し、インドネシアは約20億円、マレーシアは約40億円に過ぎない。
一方で東洋経済新報社『海外進出企業総覧』によると、2015年時点の日本の食品企業の生産拠点数はインドネシアが32社、マレーシアが19社であり、他国と比べても極端に少ないというわけではない。また、生産拠点の増加数でみれば、2006年以降、インドネシアは17拠点増加している。これはタイへの同期間中の生産拠点増加数16と同程度である。(図表2)。


現地生産拠点の増加スピードが他国と変わらない一方で輸出額が伸びないことの要因として考えられるのは、日本国内のハラール認証取得のための環境整備の遅れだ。インドネシア、マレーシアはそれぞれ9割弱(2億人)、7割弱(1,800万人)のイスラム教徒を擁し、国内でハラール食市場が占める割合は大きい。そのため、日系企業が2ヵ国でプレゼンスを高めるにはハラール対応が必須となるが、日本国内でのハラール対応は困難とされている。
例えば、図表3の①、②のハラール食材の確保であるが、日本でハラール対応をしている食品メーカーは非常に少ないため、食材調達の段階でハラール食品製造を断念する企業もある。

日本は、業界全体でのハラールに関するノウハウの蓄積がほとんどされておらず、ハラール対応を試みる場合は、現状としては個々の自助努力に依らざるを得ない。一方、インドネシア、マレーシアでは、生産者(農家、畜産家等)、物流を含む業界全体で商慣行としてハラールが根付いており、ハラールに携わる業者の数も多い。
ハラール認証取得に係る環境が整っている上、政府は民間企業がより事業を営みやすいように、ハラール産業支援制度を設けている。特にマレーシアでは、ハラール産業に携わる企業の国内投資を推奨しており、さまざまな優遇政策が講じられている。工業団地の一種であるハラール・パークもその一つで、入居企業はハラール産業に携わるものに限られており、ハラール・パークに工場を設立できれば、ハラールのためのインフラが十分に確保された環境を簡単に入手できる。さらに一定の条件を満たすことで法人所得税や関税・売上税の減免を受けることもできる。マレーシアのこのようなハラール産業への優遇政策に関して、近年インドネシアでも同様の政策に着手しようという動きがある。
日本でハラール認証を取得して輸出する企業もあるだろうが、現地生産に比べて製造コストや物流コストが高くなる。商品毎にブランド価値が認められなければ事業の採算性は厳しいものとなるだろう。他方、現地に完全子会社又は合弁会社による生産拠点の設立、または技術提携による現地企業の設備・商流を活用した商品展開であれば、コストを抑え、商品の単価を抑えることが可能となる。
ハラール産業を事業の新たな展開先として見据えるのであれば、輸出にこだわらない進出方法も検討してはどうだろうか。
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