2016年06月09日
世界経済の結びつきが強まる中、大国の経済動向が各国にもたらす影響が日々論じられる。「中国経済の減速がASEAN諸国の成長を下押し」「インドネシアは内需主体で、リーマン・ショックの影響が軽微」などと耳にするが、各国経済の他国に対する「依存度」は、どのように分析するのがよいだろうか。
直感的に頭に浮かぶのは、輸出の仕向け先である。例えば、中国経済の資源需要が落ち込むことで、中国に対する一次産品輸出を主体に高成長を続けた新興国に悪影響が及ぶこととなる。これは二国間の貿易統計を見れば推測可能である。しかし、単純な輸出入金額の観察からは、十分な分析につながらないケースもある。
例えば、米国でのiPhone(※1)需要が低迷した場合に、日本経済が受ける影響を想像してみよう。日本はiPhoneの完成品を生産していないため、日米間の輸出入金額には大きな影響が及ばず、二国間の貿易統計には影響が表出しない。
しかし、米国向けiPhoneが中国で生産されていて、iPhoneに必要な部品が日本から中国へ輸出されている場合にはどうだろうか。米国での需要低迷は中国でのiPhone生産を下押しし、結果的に日本産部品への需要が縮小、日本経済にも負の影響が及ぶこととなる。
このような構造を把握する上で有用なのが、国際産業連関表である。産業連関表そのものは国・地域ごとに作成可能なものであり、日本においては全国単位のものに加え、都道府県や一部市町村単位の表も作成されている。これを複数国間の連関に発展させたものが、国際産業連関表となる。
国際産業連関表は、日本ではJETROアジア経済研究所によりASEAN 5+日米中韓台をカバーする計数表が「アジア国際産業連関表」として5年ごとに公表されてきた。国際機関としてはOECDも計数表を作成しており、こちらはヨーロッパ諸国も含めたデータが公表されている。
国際産業連関表を分析する上でのポイントは、生産される全ての財・サービスが、①他の最終財生産に利用される中間財(=iPhoneの部品など)、または②家計・企業・政府等の最終財需要に基づき消費される最終財(=iPhoneなど)のいずれかに分類されており、各国・各産業間での取引が明らかとなっていることである。
世界の全ての財・サービス(中間財&最終財)の生産が、巡り巡って世界の最終需要を満たすために行われていると捉えれば、各国・各産業の生産が、どの地域の最終需要に依存しているかを分析することが可能となる。
図表1は、OECDにより2015年に発表された国際産業連関表(2011年)に基づき、アジア各国と米国の「国内外最終需要依存度」を算出したものである。どの国も自国最終需要への依存が最大であることは明白であるが、その程度は米国の88%からシンガポールの34%まで、大きな開きがある。ASEAN新興国についてみれば、内需主体といわれるインドネシア・フィリピンは自国への依存度が8割に迫っているのに対し、タイやベトナムは5割強にとどまり、国外需要への依存が相対的に大きい。

また、米国と中国の最終需要に対する依存度を示したものが図表2である。相対的な中国依存度(※2)が高い国から順に並べているが、台湾やマレーシアは中国最終需要への依存度が15%近くと高いのに対し、ベトナムやカンボジアは米国需要への依存度が高いことがわかる。

本稿では各国の需要依存度を全産業合算して試算しているが、国際産業連関表においては各国の個別産業ごとに様々な構造分析を行うことが可能であり、非常に有用なツールとなっている。作成・整備に多大な労力を要することから即時性には劣るものの、貿易統計に表出しない「各国経済の需要依存度」を把握することもでき、非常に有益ではなかろうか。
(※1)iPhoneは、米国および他の国々で登録されたApple Inc.の商標です。
(※2)(中国需要への依存度÷米国需要への依存度)に基づき、左から右へ並べた。
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