2016年05月12日
筆者は2015年1月にバングラデシュのPPPについて期待感を持ったコラムを執筆した(※1)。期待する理由として2点、①大規模インフラ開発への期待、②PPP法制度の充実ぶり、を挙げ、これらは引き続き継続されていると考える。しかし、約1年半のPPPプロジェクトの進捗を見返すと、その遅さが目に付く。
バングラデシュのPPP監督機関の一つPPP Authority(首相府の機関)のWebサイト(※2)によると、2016年5月時点でPPPプロジェクトの候補案件は44件(2015年1月時点は42件)。図表1は各案件を実施フェーズごとに(企画、CCEA(※3)による承認、F/S、入札、契約、建設)集計したものだ。上流のフェーズから順に追ってみると、2015年1月にCCEAの承認段階であった8件のうち、次のフェーズに進めたのはわずか2件で残り6件は同一フェーズに停滞している。同じく2015年1月にF/S段階であった24件のうち、次のフェーズに進めたのは5件に過ぎない。入札段階からは1件も次のフェーズに進めなかった。唯一、契約段階まで進んでいた4件については、3件が建設段階に進むことができた。

図表2によれば、各フェーズに必要な期間は最長でも約半年である。約1年半の期間を通じて多くのプロジェクトが同一フェーズに留まっている状況は、(政府想定よりも)進捗が停滞していると言わざるを得ない。
プロジェクトの進捗停滞の一因として、2015年9月に公布されたPPP法の整備や法施工に合わせた対応が考えられる。PPP法の英語版詳細は2016年5月時点で公開されておらず、PPP Authorityウェブサイトのリリースに要約が記載されているのみである(※4)。従来のPPP OfficeがPPP Authorityに組織替えされ、その権限も強化された模様であるが、制度が大きく変更されたわけではないようだ。
プロジェクトを促進する責務を負うPPP Officeで組織変更が実施されたことを割り引いても、進捗の停滞感は否めない。

図表1に話を戻すと、5件のプロジェクトがPPPプロジェクトとして廃案になったものと思われる(※5)。そのうち入札段階から廃案となった1件のプロジェクトの理由は、入札により投資家を集めることができず、規模を縮小して中国政府の支援で実施することが報道されている(※6)。その他4件はF/S段階からの廃案であるため、F/Sの結果、不適格となったものと考えられる。
一方で、新規に7件のプロジェクトがCCEAに承認された。ただし、5件の廃案を加味すれば、プロジェクトの総数はほとんど増えていないのが実態である。PPP AuthorityやPPP関連機関の実務能力・規模の制約から40件強のプロジェクト総数が上限となっていることが示唆される。
バングラデシュ政府のPPPに対する関心は強く、外資に対してもオープンな姿勢をとっている。実際、PPP法改正にはADBの協力を仰いでおり、PPP法の目的のひとつは海外投資家の関心を惹きつけることである。バングラデシュにおけるPPPの発展を願うものの、まずは各候補プロジェクトの迅速な進捗、すなわちトラックレコード作りが求められよう。
(※1)「バングラデシュのPPP いよいよスロースタートか」(2015年1月15日)
(※2)http://www.pppo.gov.bd/
(※3)Cabinet Committee on Economic Affairs (CCEA)とは首相直轄の閣僚級の委員会の一つ。PPPに関するガイドラインやプロシージャの承認や、PPP関連の政策・法制度の制定、VGF (Viability Gap Funding)案件の最終承認などの役割を負う。
(※4)PPP Authorityウェブサイト
(※5)2015年1月時点にはリストに掲載されていたが、2016年5月時点でリストから外れたプロジェクトが5件存在する。
(※6)2015/7/23付Dahka Tribune紙
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
コロナ禍を踏まえた人口動向
出生動向と若年女性人口の移動から見た地方圏人口の今後
2024年03月28日
-
アフターコロナ時代のライブ・エンターテインメント/スポーツ業界のビジネス動向(2)
ライブ・エンタメ/スポーツ業界のビジネス動向調査結果
2023年04月06日
-
コロナ禍における人口移動動向
コロナ禍を経て、若年層の東京都一極集中は変化したか
2023年03月31日
関連のサービス
最新のレポート・コラム
よく読まれているコンサルティングレポート
-
アクティビスト投資家動向(2024年総括と2025年への示唆)
「弱肉強食化」する株式市場に対し、上場企業はどう向き合うか
2025年02月10日
-
退職給付会計における割引率の設定に関する実務対応について
~「重要性の判断」及び「期末における割引率の補正」における各アプローチの特徴~
2013年01月23日
-
中国の「上に政策あり、下に対策あり」現象をどう見るべきか
2010年11月01日
-
買収対応方針(買収防衛策)の近時動向(2024年9月版)
ステルス買収者とどう向き合うかが今後の課題
2024年09月13日
-
サントリーホールディングスに見る持株会社体制における株式上場のあり方について
2013年04月17日
アクティビスト投資家動向(2024年総括と2025年への示唆)
「弱肉強食化」する株式市場に対し、上場企業はどう向き合うか
2025年02月10日
退職給付会計における割引率の設定に関する実務対応について
~「重要性の判断」及び「期末における割引率の補正」における各アプローチの特徴~
2013年01月23日
中国の「上に政策あり、下に対策あり」現象をどう見るべきか
2010年11月01日
買収対応方針(買収防衛策)の近時動向(2024年9月版)
ステルス買収者とどう向き合うかが今後の課題
2024年09月13日
サントリーホールディングスに見る持株会社体制における株式上場のあり方について
2013年04月17日