2016年03月28日
先日、昨年10月下旬に発表された世界銀行グループの “Doing Business 2016” を見ていて、おや、と思った。これまでの業務で多少関わりのあったいくつかの国々が順位を大きく上げていたからだ。
“Doing Business” は、世界の国・地域の事業環境を評価し順位付けしているもので、世銀グループが毎年発表している。自国の事業・投資環境をアピールするために各国の投資誘致機関がその評価や順位を紹介していることも多い。
筆者の気を引いたのは、中央アジアのキルギスとカザフスタン、東南アジアのラオス、東アジアのモンゴルの4カ国だ。今回、これらの国々の “Doing Business 2016” での評価は、ラオス134位(“Doing Business 2015”では148位)、キルギス67位(同102位)、モンゴル56位(同72位)、カザフスタン41位(同77位)で、前年版と比較して大きく順位を上げている。
この4カ国の共通点は「内陸国」であることだ。これまでの評価では、内陸国であるが故に輸出入での輸送時間・コストがかさむことから、貿易の項目の評価が特に低かった。2015年の評価で、全189カ国・地域中、カザフスタンが185位、キルギスが183位であり、最も低い水準である(モンゴルは173位、ラオスは156位)。実際、中央アジアとの輸出入に関わるある企業の方に話を聞いた際、日本からの輸出の場合、中央アジアは最も高コストの地域の1つであろうとのことだった。それが、2016年版では、キルギスは100ランク上昇の83位、モンゴルも99ランク上昇の74位である(カザフスタンは63ランク上昇、ラオスも48ランク上昇)。

なぜこんなに順位が上がったのか?最大の理由は評価手法が変わったことによる。特に、貿易に関する評価手法が大きく変更となった。貿易にかかる各種手続きの時間とコストが評価に含まれるのはこれまで同様だが、輸送に関わる時間とコストの評価手法が大きく変更された。
これまでの評価では、貿易は海路が想定されていて、内陸国でも周辺国の港を使うことが前提であったため、そこまでの時間とコストが評価に含まれていた。
2016年版では、輸出では、最も輸出額の大きな品目をその品目の最も大きな輸出相手国に15トン輸出した場合の手続き等にかかる時間、コストを評価している。例えば、Z国が下図の3品目を輸出しているとして、最も輸出額の大きな品目Cを、品目Cの最も大きな輸出相手である(a)国に15トン輸出した場合を評価しているわけだ。そして、特定の輸送手段を前提とせず、品目Cの(a)国への輸出で使われる輸送手段で評価する。港や空港、国境までの国内輸送コストで評価するということである(ただし、今回の評価では、国内輸送分の時間とコストは調査され公表されているが、評価には含まれていない)。

なお、輸入については、自動車部品15トンを輸入した場合の手続き時間、コストを評価している。
確かに、カザフスタンやキルギス、モンゴルであればロシアや中国、ラオスであれば中国やタイなど、国境を接した国との貿易を前提として考えることが現実的だ。そういう意味で、国内の時間やコストに限って評価する方が、横比較がしやすいのかもしれない。
評価手法が変わったことだけが順位上昇の理由ではない。各種手続きの簡素化進展なども評価されている。特に、カザフスタンは7つの項目で改善を進め、“Doing Business 2016”の中で、今回の評価期間中、最も改善の進んだ10カ国の1つとして名前を挙げられている。
ラオスはまだこれからという印象が拭えないものの、他方でカザフスタンやキルギスとモンゴルは外国直接投資増加へ向け、国内制度の整備を行ってきた。下表はOECDが発表しているFDI制限指数で、指数が0に近づくほど外国直接投資に規制がなく、1に近づくほど阻害要因が多いことを表している。ここにはラオスのデータは含まれていないが、OECD平均が0.068であるのに対し、キルギスは0.078、モンゴルは0.098で、他の新興国と比べて外国直接投資に関する制限が少ないことが分かる。

このような指数の改善について、自分が何か貢献したわけではないが、多少なりとも関わったことのある国々の評価が上がることは嬉しい。ただ、制度の整備が進んでいる一方で、その運用が追いついていないという声も聞こえてくる。「不透明なコスト」の指摘も多い。これらの国には、外国投資を行いやすい環境の整備には、まだ改善の余地が多く残っており、一段と環境整備を進めることが経済発展にプラスになることをぜひ意識してほしいと思っている。
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