2015年01月15日
バングラデシュのPPPが注目されている。筆者によるコラムで詳述しているとおり(※1)、第一の理由は、今後4~5年かけて最大6,000億円に上る大規模な円借款が供与される予定で、それをもとにベンガル湾産業成長地帯構想(The Bay of Bengal Industrial Growth Belt Initiative, BIG-B)と呼ばれるダッカ~チッタゴン~ミャンマー国境にかかる一帯の開発計画が推し進められる予定であること。第二の理由は、PPP(Public-Private Partnership)関連の法制度が後発開発途上国(Least Developed Country, LDC)にもかかわらず比較的充実していること。特に、図表1の3点が特筆されよう。

2010年に“Policy and Strategy for PPP”が発表されて5年。ついに当フレームワークのもとで最初の案件が開始される模様だ。バングラデシュのPPP監督機関の一つPPP Office(首相府の機関)のWebサイト(※2)によると、42件の候補案件のうち、4件にて契約交渉中~契約締結のステージにあるようだ(2015年1月時点)。
PPPプロジェクトを案件化する際は、案件の企画から契約まで図表2のように5つのフェーズ(企画、CCEA(※3)による承認、F/S、入札、契約)からなる(※4)。前述の42件とは既にCCEAの承認を得ている案件総数だ。その約1割が契約段階に到達した計算となる。

契約段階の4件の詳細をみるに、医療・福祉セクターや小規模案件といった進めやすい案件の進捗が早い。セクターの内訳は医療・福祉2件、運輸1件、ハイテクパーク1件と医療・福祉セクターが半数を占める。一方、42件全体からみれば医療・福祉セクターは8件に過ぎず、医療・福祉セクターの突出がみられる。
案件規模でみると小規模案件がやや先行している。運輸セクターの1件は大規模なものの、医療・福祉セクターの2件は小規模である(ハイテクパークは不明)(図表3)。42件全体のうち、案件規模が公表されている19件の内訳は大規模案件14件、小規模案件5件と大規模案件がやや多い(※5)。

これらの進捗は決して早いとは言い難い。図表4のとおり、CCEAの承認を得てから契約に至るまでの所要期間は、案件の規模によるものの、数か月~1年強である。CCEAの承認時期は公表されていないが(※6)、この所要期間を大きく超えているようだ。

なおバングラデシュの特色の一つである民間提案案件については、2014年12月にプロシージャが発行されたことに加え、42件中2件が民間提案案件である。1件はF/S中、もう1件は入札中の段階であり、民間提案による落札事業者はいないものの定められたフローに従って、手続きが進められている点を評価したい。
VGF案件の状況については42件のリストにおいては特に記載されていない。ただし、VGFを利用する場合は、F/Sの段階でその妥当性について議論がなされ、入札図書においてもそれが記載されるはずである。入札および契約の段階にある10件については、VGFの利用是非が既に決まっていると見込まれる。VGFの実質的な利用可否、すなわち制度の使いやすさはバングラデシュにおいてPPPが浸透するか否かのポイントである。情報公開を進め、実績を重ねることでVGFの利用が促進されることを期待したい。
VGFの利用については不明な点があるものの、民間提案も活用され、契約に至る案件が見え始めた。PPPが浸透するにはこれら案件が無事に運用されることが求められるものの、今後も契約に至る案件が続出することが予想され、2015年はバングラデシュのPPPがより注目されることになるだろう。
(※1)日経産業新聞2014年11月18日「新興国ABC-バングラデシュのインフラ開発」をご参照
(※2)http://www.pppo.gov.bd/
(※3)Cabinet Committee on Economic Affairs (CCEA)とは首相直轄の閣僚級の委員会の一つ。PPPに関するガイドラインやプロシージャの承認や、PPP関連の政策・法制度の制定、VGF案件の最終承認などの役割を負う。
(※4)PPP Office, “Policy and Strategy for PPP”, 2010によれば全部で6つのフェーズと表記されているが、本稿ではRFQとRFPを一つのフェーズ(入札)に集約した。
(※5)案件規模の定義は、PPP Office, “Policy and Strategy for PPP”, 2010に記載されている。大規模案件とは2.5 bil BDT(BDT:バングラデシュの通貨単位タカ。直近のレートは1タカ=1.5円程度)以上、中規模案件とは500 mil ~2.5 bil BDT、小規模案件とは500 mil BDT以下の案件。
(※6)PPP OfficeのWebサイトによると42件中5件の承認時期のみ記載されており(2015年1月時点)、いずれも2013年9月~12月である。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
コロナ禍を踏まえた人口動向
出生動向と若年女性人口の移動から見た地方圏人口の今後
2024年03月28日
-
アフターコロナ時代のライブ・エンターテインメント/スポーツ業界のビジネス動向(2)
ライブ・エンタメ/スポーツ業界のビジネス動向調査結果
2023年04月06日
-
コロナ禍における人口移動動向
コロナ禍を経て、若年層の東京都一極集中は変化したか
2023年03月31日
関連のサービス
最新のレポート・コラム
よく読まれているコンサルティングレポート
-
アクティビスト投資家動向(2024年総括と2025年への示唆)
「弱肉強食化」する株式市場に対し、上場企業はどう向き合うか
2025年02月10日
-
退職給付会計における割引率の設定に関する実務対応について
~「重要性の判断」及び「期末における割引率の補正」における各アプローチの特徴~
2013年01月23日
-
中国の「上に政策あり、下に対策あり」現象をどう見るべきか
2010年11月01日
-
買収対応方針(買収防衛策)の近時動向(2024年9月版)
ステルス買収者とどう向き合うかが今後の課題
2024年09月13日
-
サントリーホールディングスに見る持株会社体制における株式上場のあり方について
2013年04月17日
アクティビスト投資家動向(2024年総括と2025年への示唆)
「弱肉強食化」する株式市場に対し、上場企業はどう向き合うか
2025年02月10日
退職給付会計における割引率の設定に関する実務対応について
~「重要性の判断」及び「期末における割引率の補正」における各アプローチの特徴~
2013年01月23日
中国の「上に政策あり、下に対策あり」現象をどう見るべきか
2010年11月01日
買収対応方針(買収防衛策)の近時動向(2024年9月版)
ステルス買収者とどう向き合うかが今後の課題
2024年09月13日
サントリーホールディングスに見る持株会社体制における株式上場のあり方について
2013年04月17日