2014年07月10日
アジアと欧州にまたがるトルコに、外国からの投資が再び増加している。2014年1-4月の累計の外国直接投資金額は、前年同期を49%上回っている。トルコへの投資が増加し始めたのは2005年。2000年代初頭、同国はインフレ率が50%を上回る高インフレ国だったが、公正発展党(AKP)が2002年から安定過半数政権を担い、2003年の外国投資法の改正や2005年のEU加盟交渉の開始を通じ、高い経済成長を実現してきた。
新外国直接投資法で外資パートナーによる最低資本金規定が廃止されたこと、またメディア、空港や港湾サービス等の一部の業種を除き、外資規制がないことから、2004年には12億ドル弱だった外国直接投資は、2007年には191億ドルに急増した。2008年秋のリーマンショックの影響で、2009年と2010年の外国直接投資金額は2007年比の3分の1にまで減少したが、2011年以降は再び100億ドルを上回る水準で推移している(図表1)。

製造業の生産拠点としてのトルコの魅力に、①関税同盟のある欧州市場、FTAを締結している中東諸国、エジプト等の近隣諸国の市場に対するアクセスの良さ、②安価で良質な労働力の活用、が挙げられる。
①のアクセスの良さを裏付けるように、欧米企業の中では、トルコに事業統括の拠点を設ける企業は多い。財務面の統括機能は、オランダに置く企業が多いようだが、米国系企業のコカ・コーラやインテルでは、60ヵ国以上を統括する機能をトルコ拠点に設けている。
②では、特に縫製業等の労働集約型産業にみられている。縫製業では、世界の生産工場としての中国の存在が大きいが、中国の人件費上昇により、トルコにも徐々に生産量が戻ってきている。トルコの最低賃金は月額約5万円。失業率も9%前後と高く、余剰労働力は十分ある。また、トルコの週の法定労働時間は45時間と、東欧(ポーランド、ハンガリー:同40時間)や西欧(ドイツ・フランス:同35~38時間)に比べて長い。週6日稼動であれば、1日3シフト(7.5時間)体制を正規賃金で組めることも魅力となろう。労働者の作業効率や正確性についても、現地のヒアリングでは高く評価する声が多く聞かれた。
一方、トルコ製造業の課題は、「高付加価値化への遅れ」である。
例えば、鉄鋼分野では、トルコの粗鋼生産量は世界第8位(346万t、2013年)と欧州ではドイツに次ぐ規模だが、主にはスクラップから建設資材を作る電炉が中心で、付加価値の高い自動車用鋼板のような薄板の競争力は低い。
自動車分野では、トルコの生産台数は112万台(2013年)と、欧州の中では、ドイツ(約500万台)、フランス、スペイン(それぞれ約200万台)、英国(約150万台)に次ぐ規模だが、多くが1,600cc以下の小型車である。
白物家電分野では、生産台数(冷蔵庫:約760万台、洗濯機:約550万台、2012年)の約75%が輸出されているが、付加価値の高い部材(電子部品など)の輸入比率は高く、技術レベルがそれほど高くない製品を、安価に且つ高い品質で作ることが強みとなっている。
トルコ政府は、産業の高度化を図るための方針を表している。投資インセンティブでは複数の制度が並存しているが、基本的には、①インフラ開発等が遅れる地域の開発、②産業の高度化・付加価値化につながる産業の誘致、を重視した内容である。①については、2012年4月に「地域・大規模・戦略投資の奨励策」が発表された(図表2)。開発の遅れている地域への投資に対し、インセンティブの範囲や内容(期間、金額等)が手厚くされている。更に、業種にも拠るが、5,000万リラ(約25億円)以上の投資であれば大規模投資とみなされ、一層のインセンティブが付与される。②の産業に関しては、2013年2月に自動車・同部品・火力発電を優先投資とする投資インセンティブが発表された。
足下は、電気・電子、化学製品(プラスチック含む)、食品などの製造業の投資額が増えている。欧州や中東へのアクセス面でのメリットと、安価で良質な労働力に着目したトルコへの企業進出は、今後も進むものと考えられる。

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