2014年05月08日
「キルギス共和国」と言われて「中央アジアの国」を想起する日本人はどのくらいいるものだろうか。
「キルギス共和国」は、旧ソ連邦の1国であったが、1991年に独立国となった。「中央アジア」に位置する同国は、人口約600万人、国土面積は約20万平方キロメートルで、日本の半分ほどの広さである。中国の西に位置し、北のロシアと南のインドの中間あたり(両国とは国境は接していない)、カスピ海の東(カスピ海には接していない)に位置する内陸国である。

NIS諸国(旧ソ連15ヵ国からバルト3国を除く12か国)で1人あたりGDPを比較すると、キルギスは下から2番目と低い(2013年は1,280ドル)。主な産業は鉱業と農業であるが、鉱物資源はほぼ金に偏っている。輸出額でも、「宝石・貴金属」が4割を占め、その他、鉱物性製品が1割強、野菜製品が1割弱、衣料・縫製が8%程度となっている。

次に、世銀が毎年実施している調査から、キルギスに対する評価をいくつか見てみよう。1つは、Worldwide Governance Indicatorsである。これは、各種調査機関や国際機関、民間企業等の調査をもとに、各国のガバナンスについて評価するもので、評価はパーセンタイル順位で表される(例えば、ある国のパーセンタイル順位が10だった場合、その国は一番下から10%の位置にあるということ)。評価項目は、(1)汚職の抑制、(2)政策能力、(3)政治的安定と暴力/テロがないこと、(4)規制の質、(5)法の統治、(6)民意と説明責任、の6項目で評価される。下表のとおり、キルギスのスコアは12~40で、評価は高くない。ただ、中央アジア5ヵ国の中では、6項目中2項目で1位、3項目で2位と比較的評価が高いと言える。

一方、世界189ヵ国・地域での事業のし易さ・進出し易さを評価するDoing Business 2014では、キルギスは68位にランクされている。これは、中央アジアではカザフスタンの50位に次ぐ2位、NIS諸国では、グルジア(8位)、アルメニア(37位)、カザフスタン(50位)、ベラルーシ(63位)に次ぐ5位である。なお、ロシアは92位であり、近年、日本からの投資を多く集めてきたベトナムは99位、インドネシアは120位である。
キルギスで評価が高かったのは不動産登記やビジネス開始の容易さ(必要手続き数、所要日数、コストなど)等であり、評価が低いのは海外との貿易や電力利用の容易さである。特に、海外との貿易については、海から遠く離れた内陸国であることから、所要日数やコストが大幅にかさむことが要因となっている。
上記で見てきたとおり、キルギスは一部の資源を有するものの、基本的には農業国であり、製造業はまだ発達していない。内陸国であることから貿易にあたっての物流コストがかさんでしまう。さらに、日本語はもちろん、英語もあまり通じず、コミュニケーションは基本的にロシア語(またはキルギス語)となることが考えられる。
一方、キルギス統計局のデータによると、2013年の1人あたり名目賃金は229ドル(2013年1月から11月の平均月額)と比較的低い。また、キルギスは現在、ロシア、カザフスタン、ベラルーシの3国で形成する関税同盟への加盟準備を進めている。加盟が実現すれば、域内のヒト、モノ、カネの動きが自由となり、1.7億人規模のマーケットに組み込まれることにもなる。旧ソ連邦の1国であったこともあり、ビシュケクなど大都市では基本的なインフラは整えられており、企業へのヒアリングによると、電力でも特に問題は発生していない。投資環境を整備して海外からの投資を誘致し、国内産業の振興を図っており、汚職撲滅へ向けた動きも出ている。こうした中、日本企業の進出では、原材料を持ち込み、キルギスで加工して日本に戻す加工貿易よりは、関税同盟やその他CIS諸国の市場を見据えた進出が主力となると考えられる。
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