2013年05月15日
安倍政権の成長戦略の一つとして、海外との経済協力やインフラ輸出を支援するため、3月には「経協インフラ戦略会議」が設置された。この会議では、インフラ・システムの海外展開とエネルギー・鉱物資源の海外権益確保の支援がテーマとして検討されている。
インフラと一言でいっても、道路・鉄道・空港・港湾などの交通施設やダム・堤防など治山治水関連施設といった広域に関わるものから、電話・インターネットなど通信施設、電力・ガス・水道などのライフライン、学校・公民館・図書館などの公共施設といった地域に関わるものまで多岐に渡る。
今回は、水ビジネスと日本の水道事業の動きをみてみたい。国内では、人口減少や農業人口の減少などにより水需要は伸び悩んでいるが、海外では新興国を中心に、工業化だけでなく都市化の進展に伴う水需要の増加で、世界の水ビジネス市場は2025年には約87兆円(※1)(2007年約36兆円)へ成長すると予想されている。
水ビジネスの主要企業は、世界では水メジャーと呼ばれるヴェオリア(仏)やスエズ(仏)である。両社とも100年以上も前から水道事業を手掛けており、給水・下水対象人口はいずれも1億人を超えている。両社の強みは、水道事業の運営や管理などを一元的に扱えること、長期間にわたる事業のリスク管理能力を有するところにある。最近では、ハイフラックス(シンガポール)やDoosan(韓国)など新興国にも水ビジネスに強い企業が現れ、中東や北アフリカ地域でビジネスを拡大している。水ビジネスのバリューチェーンでは、運営・管理の収益割合が高い。
一方、日本の場合、「部品・部材・機器製造」は機器メーカー、「装置設計・調達・建設」はエンジニアリング企業、「事業運営・保守・管理」は商社などと分野毎に分かれて参入している。そのため、日本企業はサブ・コンストラクターとして機器納入に関与したり、出資による参加が中心であり、プライム・コントラクターとしてのポジションは確保できていない。この背景には、我が国の上下水道事業の運営・管理が地方公営事業として運営されてきたことにある。

日本の水道事業は、現在、2つの課題を抱えている。今後の維持・更新投資と職員数の減少である。日本では、水道事業の99.5%、下水道事業の93.4%が地方公営企業により運営されている (図表2)。水道管は1970年代に建設されたものが多く、この40年間で水管総延長はおよそ3倍に、下水道は90年代に主に整備され、同じく40年間で下水管敷設延長はおよそ15倍となっている。
図表2 我が国の上下水道

いずれも導管の耐用年数を考慮すると更新投資のピークを2020-2025年頃には迎えるとみられているが地方財政が逼迫しており更新があまり進んでいない。というのも、導管の維持・更新の主要原資は上下水道とも利用者からの料金収入だが、人口減少や節水志向の広がりなどで上水道の場合、料金収入が減少傾向にあるからだ。下水道の料金収入にしても、現状は増加基調だが、これは下水管総延長の伸びに伴って下水道利用者が増加しているからであり、将来的には安心できない。
また、職員数が上下水道共に減少傾向にあることも注意が必要だ。この10年で25-28%の減少であり、4人に1人減っている計算になる。主因は、市町村合併等による事業統合で間接部門がスリム化されたり、水道関連施設の建設がピークアウトしたことによる減員などである。効率的な人員の減少は好ましいが、60-70年代の上下水道整備を支えた職員の多くが定年を迎えようとしており、今後の水道事業の維持・更新には懸念材料である。
日本の水道事業は、水を住民に公平かつ安全・安価にという観点から長年、公営企業で運営されてきた。しかし、2002年4月に施行されたの改正水道法により水道施設の運営維持管理の民間への委託が認められるようになり、民間への委託事例も増えてきた。
前述の懸念材料である水道事業の維持・更新投資や運営管理には、民間の資金調達力や経営管理手法を役立てる場面がまだまだある。
担当省庁による検討では、今後の上下水道の在り方について「広域化・集約化」なども指摘されており、ここでも民間の経営管理手法の活用が期待される。
世界的な水需要に対して、日本の水道インフラ・システムが応える日も遠くはなかろう。
(※1)(出所)Glbal Water Markets 2008 及び経済産業省試算
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