2013年04月11日
中国政府は経済成長に伴い、人民元の国際化を積極的に推進してきている。この数年間、人民元の国際化はさまざまな側面で進んでいる。例えば、香港での人民元建て債券市場や人民元建て預金市場、国際貿易決済における人民元建て決済、人民元建て対外直接投資(ODI)及びクロスボーダー人民元建て外商直接投資(FDI)などである。
クロスボーダー人民元建て外商直接投資(FDI)は2011年から認められたもので、現状では、国家制限類(注:技術が遅れて、業界の参入許可条件などを満たさず、産業構造の最適化とグレードアップに適応せず、改造および新設禁止すべきものを指す)など特別分野を除き、外国企業はクロスボーダー人民元建て貿易決済により取得した人民元、法律に基づき中国国内から取得しかつ国外へ持ち出された人民元利益及び持分譲渡、減資、清算、投資先行回収により取得した人民元並びにその他の適法なルートで海外から取得した人民元を中国での企業の新規設立、中国国内企業を対象とするM&A、持分譲受、増資、株主融資に利用することができる。
法令面では、商務部、中央銀行、外貨管理局のような関連行政機関はそれぞれの立場から具体的な規定を出している(図表1)。一見して、整備された法令体制ができているように見える。メディアなどでもクロスボーダー人民元建て外商直接投資の外国投資家にとってのメリット、例えば、為替変動リスクの回避、両替手続きが不要などを宣伝している。基本的には、人民元建て外商直接投資は魅力のあるものである。統計データによると、クロスボーダー人民元建て外商直接投資の2011年累計発生額は907.2億元で、2012年累計発生額は2011年のほぼ3倍の2,510億元となっている。
クロスボーダー人民元建て外商直接投資で、実際に外資企業を新規に設立する場合はどうだろうか。
日系企業にとって、為替変動リスクの回避、両替手続きの不要という点で、確かにメリットが大きいが、小口現金の面では設立当初において大変な苦労をしなければならない。
というのは、人民元建て資本金口座は外貨建て資本金口座と同じく、自由に現金を引き出すことが原則禁止されている。そのため、今までの経験では、日常の小口現金は外資企業名義の資本金口座から同名義の人民元基本口座へ送金してから、自分の都合に合わせて少しずつ基本口座からおろして使う。だが、資本金口座開設銀行は、外資企業の資本金が確実に経営範囲で使われることを確保するために、資本金口座から人民元基本口座への送金を原則上できないようにしている。どうしても送金したいなら、例えば10,000元を送金した場合、1週間以内にこの10,000元を1角1分(注:中国の元の下の通貨単位)までどういうふうに使ったかを証明する証憑明細を提示しない限り、資本金口座からの支払いが一時停止されるとし、外貨建て直接投資の場合(※1)より更に厳しいことを要求している。
これについて、関連行政機関に問い合わせをしたところ、窓口担当者はそれぞれの立場から異なることを言っている。商務局は、できるはずだが、中国人民銀行の方針に従うべきと言い、中国人民銀行は、原則、従業員の賃金と日常用の小口現金は人民元基本口座に送金できるが、具体的には資本金口座開設銀行の規定に従うべきとしている。
さまざまな規制を受ける中、これら外資企業の日常の小口現金の支出は、銀行の時間制限規制を厳守するか、従業員が一旦立て替えて、会社名義で発行された領収書をもらってから精算の形で資本金口座からお金をもらうしかない。
規制が緩和されない限り、クロスボーダー人民元建て外商直接投資で新規設立した外資企業は短期間内に売り上げをあげないと、小口現金の使用に困る状態が続くだろう。
(※1)外資企業の資本金に対する管理は従来厳しかった。外貨建て直接投資の場合も、小口現金として資本金口座の外貨を人民元に決済して人民元基本口座に1か月当たり10万米㌦相当、1回当たり5万米㌦相当の金額を上限に送金できるが、次回の決済時に前回の決済金額の使途について報告しなければならないと規定している、時間の制限は特にない。これも法令の整備や実務上の経験が豊かになってくるのに伴って改善された結果である。

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