2012年06月14日
本稿ではフィリピンにおける運用ビジネスについて、これまでの経緯を踏まえ今後を展望してみたい。
フィリピンにおいて投資会社法が成立したのは1960年のことである。すでに海外の投資信託が国内において販売されていたが、不適切な販売(高額な手数料)により投資家に不測の損失が発生する事態となっていた。このためフィリピン政府は、投資家の保護を目的として投資会社法を作った。同法の成立に合わせ3社の国内投資会社が設立されたが、1980年代は国内の政治・経済の不透明な時期が続き、海外への継続的な資本逃避の影響も受け、国内の投資信託市場は不振を極めた。
1990年代に入り、政治・経済は落着くとともに、資本市場育成が経済開発の大きなテーマとなり、投資信託制度もその対象となった。フィリピン政府は、証券取引法の改正に合わせて投資会社法規則の見直しを進めた。1995年の投資会社法規則の制定で制度基盤が整い、新たな運用会社の参入に合わせ業界団体が創設され、本格的な投資信託制度が動き出した。
一方銀行業界では、銀行の信託部門が運用サービスの一環として、投資信託を販売していた。その運用資産残高は、銀行の持つ販売力が功を奏し、2004年にかけて大きく拡大した。
一方銀行監督を担う中央銀行は、銀行での販売が投資家の銀行預金との誤認が生ずる可能性があることから、投資信託に市場の変動による資産価格の変動リスクがあることを投資家に周知するなどの指導を進めてきた。
また保険会社は、積立型保険の一つとしてPre-Needsと呼ばれる金融商品を販売している。この商品は、教育や住宅購入などを目的として定期的に資金を積立てる一方、死亡時に一定の保険金が支払われる仕組みである。積み立てられた資金は運用され、運用収益も期待されることから、投資信託と同様に投資商品として認知されている。
しかし以上のような市場育成策にも関わらずフィリピンにおける運用ビジネス全般はアジアの中でも大きく立ち遅れている。その原因として指摘されているのが、運用業界を規制する法律の複層性にあるといわれている。さらに銀行や証券会社などの販売チャンネルごとに投資信託市場が細分化された結果、規模の拡大によるプラス効果が出せない状況にある。
これに対しフィリピン政府は、運用型商品を一括して規制する法律案を議会に上程している。法律案には、投資信託や保険会社による運用商品の主たる規制当局を証券監督委員会にするとともに、REITやETFなどの商品開発を促進するための税制の改正などが盛り込まれている。
また最近になり国内投資家の中にも今後経済成長が見込まれる自国の証券市場を改めて着目する動きが出ている。それに対応すべくフィリピン取引所でも長期投資家の育成をめざし、新たな商品(上場投資信託 ETF)の運用を開始すべく準備を進めてきている。
経済環境が好転するなかで、投資家のフィリピン市場を再評価する動きは、上述の投資信託制度改革をさらに推進してゆくだろう。そしてこれはフィリピン経済の成長持続性を投資資金の導入を通じて支援してゆくものと思われる。
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