2012年03月29日
新興国の都市部では、経済成長を背景に高所得層が急拡大している。さらにこれら都市では、かつての日本と同様、テレビ、冷蔵庫をはじめとする生活家電や自家用車など耐久消費財を手に入れた人々が次第に「食」の豊かさを追求する動きも見られつつある。例えば東アジア地域では、高級食材・食品に対するニーズが高まり、百貨店などを中心に日本産農産物・食品を販売する小売店も増えてきたようだ。東アジア諸国は日本とも文化的に共通点が多く、日本産品の消費ポテンシャルのある地域と看做されている。
このような動きと前後して、日本では小泉政権下での「農林水産物等輸出促進全国協議会」の設立(2005年4月)以降、農林水産物の輸出促進が推し進められてきた(※1)。政策的な支援を受け、農林水産物(アルコール飲料、たばこ、真珠を含む)輸出額は2004年の3,609億円から2007年には5,160億円へと、3年間で1.4倍となった。しかし、その後は2008年に生じたリーマン・ショックの余波により頭打ちとなり、さらに東日本大震災の影響を受け、2011年の輸出額は4,513億円(対前年比8.3%減)へと微減状況で推移している(図表1)。
図表1 我が国における農林水産物輸出金額の推移

出所:財務省「貿易統計」より大和総研作成
農林水産物輸出の逆風として、特に東電原発事故によるところが大きいとの指摘がある。実際、農林水産省によると、震災発生から約1年を経た3月26日現在、依然として40を超える国または地域において、日本産農林水産物に対する輸入規制措置が実施されたままだ。輸入停止、現地におけるサンプル検査・全ロット検査など規制内容は様々だが、日本からの輸出に際して、従来以上に手間やコスト負担が重くのしかかっているのは間違いない。規制を緩和する動きが一部の国で生じているとは言え、日本から農産物・食品を輸出する立場からすれば、まだ大きな障害が横たわっていることに変わりない。
これまでの農林水産物輸出への政策的支援は、輸出元を対象とした情報提供、海外見本市の開催など、どちらかと言うと「戦術」に力点が置かれてきた。しかし、今後は日本から輸出する農産物・食品に対する風評被害を払拭した上で、消費者に強く訴求し、潜在顧客を真の顧客としていくような「戦略」も必要ではないだろうか。各国で消費者ニーズが高まれば、日本産農林水産物への規制をさらに緩和する動きも期待されよう。
このような取り組み(戦略)の候補として、例えば、日本のお家芸とも言える「アニメ・マンガ」の活用を提案したい。日本の質の高いアニメ・マンガは様々な国で認知されており、輸出品の消費者への訴求力として活用しない手はないだろう。逆風の強い今であるからこそ、例えば、日本の農産物・食品の生産現場や日本食をテーマとして描いた作品を通じ、輸出先の潜在顧客を対象とする市場開拓を試してみるなどの工夫を施してみるのは如何であろうか。
(※1)輸出額の目標として年間1兆円が設定されている。東日本大震災の発生を受けた「日本再生の基本戦略」(2011年12月24日閣議決定)により、目標の達成時期は、2020年とされた。
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