2012年03月15日
現在、新興国を中心に全世界的に都市化が進展しており、2020年には、新興国の都市人口と農村人口が逆転するといわれている。2050年には、全人口の約7割が都市に居住するようになるので、都市への人口集中を支えるための社会インフラの整備が急務となっている。
世界の社会インフラ開発においては、経済発展と環境保護の両立が必要で、都市建設とインフラの高度化が同時進行でなされなければならない。先進国では都市人口の高齢化や社会インフラの老朽化の問題がある。新興国においては、人口の都市集中と、受け皿としての大規模な都市建設が進められているが、先進国、新興国に共通して、環境保護が課題となっている。
そのような背景の下で、中国広東省の広州市では、「知恵のまち、学習のまち、革新のまち、未来のまち」という四つの機能を一体化させたスマートシティの建設が進められている。
「知恵のまち」とは、世界的先端技術や知恵をまちにもたらすこと、「学習のまち」とは、生涯学習のプラットホームをつくること、「革新のまち」とは、世界各国からハイレベルの人材を集め、様々なアイデアを集めること、「未来のまち」とは、世界のトレンドをリードし、持続可能な都市をつくるというコンセプトである。
スマートシティはサステナブルシティ、コンパクトシティ、エコシティなど様々な言葉で呼ばれる。広州の場合にはナレッジシティと称する。そこに住む住民の視点、開発者の視点、行政の視点で様々な呼び名があり、これらを総称してスマートシティと呼んでいる。
地球環境に配慮していても、安心・便利で豊かな都市生活においては、生活が豊かになると環境を破壊してしまう。次世代都市では、これらを調和させて、ちょうど良いバランスにすることが求められる。地球環境への配慮と、安心・便利で豊かな都市生活のバランスをうまくとることが必要である。
社会インフラには様々なパーツがある。太陽光・風力エネルギーといった再生可能エネルギー、アメリカから始まったスマートグリッドの構想、地域や家の中のエネルギーマネジメントなどのエネルギー分野がまず上げられる。また、スマートシティの中での生活に欠かせないのは交通である。広州市もかなり車が渋滞するので、渋滞解消のためにスマートモビリティーやスマートナビゲーションが必要になってくる。さらに、人間が生きるためには水が必要で、水を再生させながら効率的に使うというリサイクル、水インフラの分野もある。これらの社会インフラを生活につなげるために、ITの活用が非常に重要になってくる。
スマートシティがこれまでと違うところは、インフラのマネジメントである。これまでは、それぞれのサービス供給者がエネルギー、ビル、住宅、モビリティ、水環境などのインフラを整備するという、縦割りのマネジメントになっている。スマートシティはITの技術を統合するプラットホームで、従来の製品システムが持っている情報を使いつつ、高付加価値のユーザーサービスを提供する。大容量データベース、データセンターなどがスマートシティのサービスを担うという統合インフラが求められる。
従来、オフィスや個人、家庭の中で、より大容量に、より高速にと使ってきた情報系システムがある。社会インフラに目を向けると、工場などではより確実に安全、しかもリアルタイムにという制御のシステムがある。スマートシティを実現するためには、情報系のシステムと制御系のシステムを融合させることが非常に大事である。
広州ナレッジシティの開発期間は約20年で、完成時には54万人が居住する。計画面積は123km2で、広州市の中心部まで35km、空港まで25kmの位置にあり、車で2時間以内に香港・マカオなど珠江デルタ地域のほとんどの中心都市に行くことができる。既に周辺には高速道路網が整備され、2014年までに3本の地下鉄が開通する予定である。
広東省にはこれまで多くの日本企業が進出しており、経済・貿易面でのつながりは密接である。広州ナレッジシティについても日本は第3位の投資国になっており、2011年末時点で投資総額は15億ドル、投資プロジェクト数は137件に達している。
広州ナレッジシティでは情報技術産業、文化産業、教育産業、科学技術産業などに重点が置かれ、新エネルギー、省エネ、新素材、バイオ技術などの産業にも期待が持たれている。持続可能な都市づくりには世界各国の先進的な理念や技術が欠かせない。
特に、日本に対しては漫画やアニメをはじめとする文化産業への支援や、携帯電話によって映画館の情報を入手したり、電気代やガス代を支払ったりする無線技術による都市機能の向上が期待されている。世界一の技術力を持つ国として、広州ナレッジシティでは日本からのさらなる投資が期待されているのである。
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