2012年02月22日
東日本大震災からまもなく1年を迎える。
まず被災地の住民や自治体をはじめ、復旧復興に不断の努力をされてきた方々に改めて敬意を表したい。
発災以降これまで、被災地地方自治体や政府は復旧事業と併行して復興に向けた計画づくりや本格的な復興に向けた準備を進めてきた。
被害の大きかった岩手、宮城、福島の3県では岩手県が最も早い2011年8月、続いて宮城県が10月、原発問題で計画策定が遅れた福島県でも12月にそれぞれ復興計画を策定し、県としての復興の方向性を固めた。また、被災市町村の約8割(43市町村のうち34市町村)が昨年中に復興計画を策定している。
この間、政府も「東日本大震災からの復興の基本方針」(2011年7月決定、8月改定)を策定したほか、第1次~第3次補正合計で約15兆円の復興関連予算を成立させている。行政組織面では2011年12月に復興庁設置法が成立し、2012年2月に復興庁が開庁した。また、復興の目玉政策の1つである復興特別区域(いわゆる復興特区)の法律が昨年2011年12月に成立、2012年2月に入り、2つの復興特区が岩手と宮城で認定されるに至っている。
ただ、被災者サイドでは行政による復興対応のスピードは遅いという意見が多い。これはこれまで復旧に係わる事業が多く、恒久住宅など生活に直結する復興事業が本格的に立ち上がってないため、復興が進んでいるとの実感を持てないことが大きな要因であると考える。復興計画を策定してもそれに基づき事業を実施するまでには、住民の合意形成に基づく具体的な土地利用計画や事業計画を作成する必要があり、更には、地権者等の調整を含む事業実施準備のプロセスも踏まなければならない。これらは個別の利害調整を含む作業であり、復興において最も難しいプロセスである。現在、各市町村ではこの調整に奮闘しているところであり、政府には集団移転に伴う移転元の土地評価など、住民との合意形成を円滑に行うための様々な環境整備を期待したい。
このような状況の中で復興を加速するには、民間活力を積極的に活用し、行政、民間企業、住民等、全ての関係者が主体的に参画しながら復興を検討すると同時に、復興事業を通した住民の生活再建や地域振興のイメージを共有し、合意形成に対する住民のインセンティブを高める仕組みづくりが重要と考える。
その実現に向け、以下の2点を是非地方自治体で推進して頂きたいと考える。
- 地方自治体による積極的な情報発信と提案受け皿となる官民連携の一元窓口の設置
- 官民連携事業に係わる事業化前段階の支援
1.は、民間側で各地域の復興計画に即した有益な復興事業のアイディアを検討しやすいように、地方自治体側からまちづくりや産業振興に係わる方向性、民間に期待する事項などの情報を積極的かつ自発的に発信すると共に、民間からの様々な提案の受け皿となる窓口を一元化し、民間と地方自治体が一体となって事業を検討しやすい体制を確立することである。
これについて最近の事例を紹介したい。2/3に岩手県が東京で復興に関心のある企業向けに県の復興計画や主な取り組み、地元企業経営者の活動等を報告するフォーラム(主催:岩手県/後援:大和総研)を開催した。ここで県知事自ら県としての復興の方向性について情報発信すると共に、いわて未来づくり機構による民間と市町村のマッチングスキームや民間からの提案を一元的に受け付ける窓口部署(復興局産業再生課)の設置について説明した。民間企業の関心は非常に高く、400名もの参加者で会場の座席が足りないほど盛況であった。このような取組みは単発ではなく、是非定期的に実施してもらいたい。
次に2.は、官民連携事業の実施段階だけではなく、それらを検討する段階から地方自治体が支援する施策である。官民連携事業を検討する人材や資金力が少ない中小企業からも提案しやすくなると同時に、事業計画のスムーズな策定を通して復興事業の立ち上げスピードを速める効果が期待できる。
官民連携事業は、これまで民間企業が実施してきた事業とは異なる新しい分野への挑戦である。事業スキームづくり、事業環境を踏まえた事業計画の作成など、事業実施準備段階での検討に多くの時間や費用を要する。活用できる支援策の調査や申請、行政や住民との協議等、民間企業単独で行う事業とは別の官民連携に係わる専門的なノウハウが必要であり、そのような人材を確保することも大きなハードルとなる。特に経営資源の限られる中小企業においてはこのような業務を自社だけで遂行することは難しく、復興事業のアイディアがあってもなかなかそれを実行に移すのは難しい。
このような直接収益に結びつかない事業化前の検討プロセスが民間企業にとって大きな負担となっており、この段階から行政の支援が受けられることになれば、官民連携事業は大きく加速すると考える。
今年4月からの新年度は本格的な復興が開始される年となるが、これまでのように行政偏重型の復興には限界もある。是非民間も主体的に復興に取り組む「全員参画型」の復興が展開されることを強く期待する。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
コロナ禍を踏まえた人口動向
出生動向と若年女性人口の移動から見た地方圏人口の今後
2024年03月28日
-
アフターコロナ時代のライブ・エンターテインメント/スポーツ業界のビジネス動向(2)
ライブ・エンタメ/スポーツ業界のビジネス動向調査結果
2023年04月06日
-
コロナ禍における人口移動動向
コロナ禍を経て、若年層の東京都一極集中は変化したか
2023年03月31日
関連のサービス
最新のレポート・コラム
よく読まれているコンサルティングレポート
-
アクティビスト投資家動向(2024年総括と2025年への示唆)
「弱肉強食化」する株式市場に対し、上場企業はどう向き合うか
2025年02月10日
-
退職給付会計における割引率の設定に関する実務対応について
~「重要性の判断」及び「期末における割引率の補正」における各アプローチの特徴~
2013年01月23日
-
中国の「上に政策あり、下に対策あり」現象をどう見るべきか
2010年11月01日
-
買収対応方針(買収防衛策)の近時動向(2024年9月版)
ステルス買収者とどう向き合うかが今後の課題
2024年09月13日
-
サントリーホールディングスに見る持株会社体制における株式上場のあり方について
2013年04月17日
アクティビスト投資家動向(2024年総括と2025年への示唆)
「弱肉強食化」する株式市場に対し、上場企業はどう向き合うか
2025年02月10日
退職給付会計における割引率の設定に関する実務対応について
~「重要性の判断」及び「期末における割引率の補正」における各アプローチの特徴~
2013年01月23日
中国の「上に政策あり、下に対策あり」現象をどう見るべきか
2010年11月01日
買収対応方針(買収防衛策)の近時動向(2024年9月版)
ステルス買収者とどう向き合うかが今後の課題
2024年09月13日
サントリーホールディングスに見る持株会社体制における株式上場のあり方について
2013年04月17日