2011年11月10日
近年、中国税制の改正に伴い、外資系企業の中国進出において、タックスプランニングが重要な課題となっている。中国における現行税制の下で、各種の特殊規定、優遇措置等が存在しており、同じ納税者にも関わらず、異なる納税条件により、税負担に大きな差異が生じてしまう。これらの差異は中国進出企業にタックスプランニングの可能性を生じさせている。
本稿では、中国税制上の差異によるタックスプランニングの可能性について述べてみたいと思う。
1、地域間の税負担差異によるタックスプランニングの可能性
中国において地域間でも税制が異なり、これを活用して企業の税負担の軽減を図ることができる。2000年以降、中国政府は、沿海部と内陸部の経済格差是正のため、内陸部開発を重視する姿勢に転向し、一連の優遇措置を制定した。例えば、「西部大開発戦略」は、中国四川省、重慶市をはじめる西部地区に進出する外資系企業が15%の軽減税率が適用されると規定している。
また、中国各地には「開発区」と称する地域がある。各地国家級や省級の開発区は外資を誘致するため進出企業に対し税制上、様々な優遇策を設けている。地域によって、優遇条件が異なるが、ケースごとに企業と開発区の管理委員会の交渉によって決定される。
2、業種間の税負担差異によるタックスプランニングの可能性
中国において、産業を「奨励類」「許可類」「制限類」「禁止類」に4つに分類している。「奨励類」に該当する場合、投資総額の枠内で輸入する設備(「国内投資プロジェクト免税対象外輸入商品目録」に該当する設備を除く)について、関税・輸入増値税の免除を受けることができる。
中国政府は2006年に、「革新と科学技術の進歩」を基本的な国策に組み入れた。政府は世界に向けて原価コストの低い製品を生産するだけでは経済発展を持続できず、産業バリューチェーンの中のポジションを高める必要があると認識しており、ハイテク産業に対して一連の優遇措置を制定し、2008年から施行された「新所得税法」では、ハイテク企業及び研究開発活動に対する優遇税制がさらに拡大された。企業の業務が全体として奨励類産業に該当しなくても、企業が従事する補助的な活動の一部が、優遇税制の対象となる可能性がある。例えば、企業の一部の業務がハイテクに属し、或いは企業の補助的活動が多くの研究開発や情報技術を含む場合等である。企業はこれらの活動が優遇税制の適用を受けられるように、必要な措置を講じることについて検討することができる。例えば、独立企業の形式を採る場合のみ優遇を受けることができると規定されている場合、優遇税制の対象となる業務活動について、優遇税制の適用を受けるために、当該活動を企業から独立させて新たな企業を設立することが考えられる。
3、企業規模別の税負担差異によるタックスプランニングの可能性
中国現行税制の下、企業規模によって、異なる制度を実行されている。増値税制度については、納税企業を通常納税企業と小規模納税企業に分けられ、異なる増値税徴収管理方法が実行されている。また、所得税制度についても、一定純利益以下の中小企業に対して、20%の税率に軽減される。このような扱いを区別することで、政策は企業にタックスプランニングの可能性を生じさせる。
中国において、税制上の差異は概ね中国政府の政策方針に反映されるものであり、これを活用することは、税法の認める範囲内でタックスプランニングを実行する最も有効な方法の一つだと考えられている。
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