2010年10月29日
今月中旬、アジア太平洋経済協力会議(APEC)の食料安全保障担当大臣会合が新潟で開催された。APECの場で食料安保に関する閣僚会合が開催されるのは今回が初めてで、人口増加や気候変動などによる農産物の確保や価格高騰が懸念される中、食料の安定供給に向けた協力体制について議論が行われた。
閣僚宣言(※1)では、2050年までに91億人に達すると予想される世界人口を養うのに、食料生産を現在の1.7倍にする必要があるとされ、「世界の食料安保は岐路」に立っているとの危機感が示された。同時に共通の目標として、(1)持続可能な農業、(2)投資、貿易及び市場機能の円滑化(農業における十分な投資促進)が掲げられている。一方、農業投資の促進については、民間投資の役割が重要視されるとともに、投資を受け入れる地域社会に配慮する「責任ある農業投資」を進める旨が謳われた。
閣僚宣言(※1)では、2050年までに91億人に達すると予想される世界人口を養うのに、食料生産を現在の1.7倍にする必要があるとされ、「世界の食料安保は岐路」に立っているとの危機感が示された。同時に共通の目標として、(1)持続可能な農業、(2)投資、貿易及び市場機能の円滑化(農業における十分な投資促進)が掲げられている。一方、農業投資の促進については、民間投資の役割が重要視されるとともに、投資を受け入れる地域社会に配慮する「責任ある農業投資」を進める旨が謳われた。
今回の会合が開催された背景には、2007~2008年にみられた農産物価格の高騰や、穀物を中心に農産物の輸出規制が多くの国で行われ、農産物輸入国でいざという時に食料調達が困難になるという危機意識の高まりがある。また、こうした状況下でアフリカの農地を買い集めようとする中国、韓国、中東諸国などの動向が「新植民地主義」と揶揄されるなど、新たな食料安保の問題意識も影響しているかもしれない。
以上のような食料逼迫を懸念する議論に対し、世界銀行が2007年に発表したレポート(※2)などは、「世界は全人口を養うに足る十分な食料を生産できる」と指摘する。実際、主要農業国では、サトウキビ、トウモロコシなどが食用ではなく、バイオエタノールの原料として転用されている現状を考えれば、総量として農産物は十分に生産されているとみることもできよう。農産物には複数の利用形態が想定できるものがあり、特に多国間における食料安保を巡る議論は一筋縄でいかない部分がある。
いずれにせよ、忘れてならないのは食料自給率(カロリーベース)が40%に過ぎない日本の問題だろう。食料の多くを海外に依存せざるを得ない状況は、様々な要因によって国内の食料供給に混乱が生じる可能性と背中合わせということだ。我々には、こうしたリスクを絶えず意識しながら、世界の食料需給動向を注視し、食料安保論議を重ねていくことが求められている。
(※1)「第1回APEC食料安全保障担当大臣会合APECの食料安全保障に関する新潟宣言」
(※2)World Bank(2007)“World Development Report 2008: Agriculture for Development”
(※2)World Bank(2007)“World Development Report 2008: Agriculture for Development”
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