2010年05月18日
日本でも連日報道されているように、5月1日に上海万博が開幕した。万博は中国にとって08年の北京オリンピックに続く超大型イベントであり、国内各地・海外からの来客に備えて、インフラ整備が急ピッチで進められてきた。最近まで上海市中心部などでは至る所で道路工事が行なわれ、黄浦江(旧市街と浦東新区の間を流れる川)を渡る車道トンネルはここ半年間で3本完成している。08年末に総延長距離240kmだった上海市の地下鉄網も、既に420kmまで延伸した。また、先月中旬以降は街中の警官数が目に見えて増え、空港や駅での荷物検査は以前よりも厳さを増している。4月20日からは大規模な動員が行なわれ、1週間にわたる万博運営のリハーサルが実施され、交通の混乱を防ぐ目的で4月30日と5月4日は上海市の公休日となった。
このように急ピッチ且つ万全の準備を経て始まった上海万博だが、滑り出しの入場者数は意外なことに想定を大きく下回っている。初日と2日目(5月1・2日)は20万人を超えたものの、5日の入場者は9万人以下にとどまった。その後は増加に転じているものの、17日までの累計入場者数は319万人というから1日平均で約19万人の入場者数という計算になる。上海万博の入場者数目標は7,000万人と公表されているので、これをベースに想定入場者数(1日平均)を計算すると約38万人だから、想定の半分の水準に止まっているのが現状だ。ただ、増加傾向が現われており、13-17日は5日連続で20万人以上の来場があった。15日にはこれまでの最高となる33万人の来場者数を記録している。夏季休暇がこれから始まり、また開幕直後は混雑を予想してあえて避けた人も多かったであろうことを考えると、平均入場者数は今後も増加していくのではないか。
筆者が最初に上海万博会場に足を運んだのは連休が終わった直後、5月5日の夜である。当日は平日で小雨がぱらつく天気であったため、入場数が特に少なかった日だ。にもかかわらず、結局のところ筆者は日本館しか見物することができなかった。これは滞在時間が短かったこともあるが、それよりも(1)万博会場はとにかく広くて移動に時間がかかる、(2)日本館のような人気のあるパビリオンは並ばなければ入れないことなどの理由の方が大きい。実際の当日のスケジュール(万博会場入場から帰宅までの時間経過)は以下の通りであった。
18:30 | 2号入口到着(西蔵南路入口:旧市街側) |
18:40 | 荷物検査終了 |
18:50 | バス搭乗 |
19:00 | 浦東会場到着(万博文化センター前下車) |
19:15 | 中国館前 |
19:40 | 日本館前 |
20:25 | 日本館入場 |
21:15 | 日本館退室 |
22:00 | ドイツ館前 |
22:15 | 食事 |
22:45 | 万博専用地下鉄世博大道駅 |
23:20 | 帰宅 |
万博会場2号入口についたのは18:30である(入口は何ヶ所かある)。入口で私の前を歩いていたのは1人のみで、鉄柵に沿ってかなり長い距離を歩いて並ばずに荷物検査を受けた。会場に入ってから10分ほど歩くと、メイン会場の浦東側に渡るバス停がある。そこで筆者の他に1名しか乗っていないバスに乗り込み、人気の中国館に近い停留所でおりた。もっとも中国館は予約券を入手してからでないと入場できないと聞いていたので、日本館を目指して歩き、日本館に到着したのは何と19:30である。途中で所々写真撮影したり、飲料を購入したりしたものの、結局入口から日本館に到達するまでに1時間かかった勘定だ(注:4号入口からの入場であれば10分で到着可能)。



日本館は人気のあるパビリオンの一つとされており、比較的入場者数の少ない当日の夜でも入場のための行列ができていた。そこで45分ほど並んで会場内に入り、展示品とナレーション、劇を見て退室したとき、時刻はすでに21時を回っていた。その後は、近くの韓国館を見に行ったが、すでに入場を締め切っていたため、欧州各国のパビリオンに向かい、写真撮影をしながら普通の速度で歩いてドイツ館に着いたのが22時。ここでも移動だけで1時間弱の時間をとられたことになる。
実際にはドイツ館から大勢の見学者が出てくるのを見て入場をあきらめ、ファストフード店で食事をとるのだが、そうこうするうちに既にパビリオンの最終入場時刻22:30が過ぎ(万博会場の閉場時間は深夜0時だが、パビリオンへの入場は22:30まで)、食事後は帰途に付かざるを得なかった。要するに筆者の万博初体験は、18時半よりあっという間に4時間が経過、パビリオン入場は日本館のみというように、(不慣れなことも手伝って)広大な万博敷地内の移動に相当な時間がかかることを痛感したものであった。なお、帰りは地下鉄を利用して旧市街側に戻ったのだが、浦東会場のほぼ中央に地下鉄の駅があり(世博大道駅)、そこから2駅先の馬当路駅までの乗車(無料)を利用した。

ところで万博会場内にある日本館は浦東会場の東端に位置している。ドイツ館は中央西寄りで、そこまで徒歩で45分ということは、日本館から会場西端の米国館まで歩くと優に1時間はかかる見込みである。そして、日本館やドイツ館など人気パビリオンは、すいているときでも最低1時間は並ぶ覚悟が必要になる。しかも筆者が日本館で並んだ1時間はむしろ短い方で、実際、平日の午後3時頃に再訪した際は3時間待ちの行列ができていた。さらに、日本館のように大型かつ劇鑑賞などが付いているパビリオンは見学だけでも1時間は必要になる。万博見学時間を数時間として来場すると、人気館目当てならば1箇所しか見ることができない可能性が高いということになる。できるだけ多くのパビリオンを見学したいのであれば、人気館をあきらめるしかないだろう。
上海の夏は長くて暑い。見学初体験の5月5日の夜は過ごし易い気候(気温22度)であったが、夏場の上海は湿度が高く、気温も40度近くまで上昇することがある。世博軸(中国館横を走る橋)などに日陰スペースもあるが、会場では基本的に炎天下を歩かざるを得ない。会場内では無料バスも運行されているが、必ずしも目的地の直前までいけるわけではなく、バス停から目的地まで相当な距離を歩くことが多いはずである。パビリオン入館時に並ぶ際も冷房がないなどの事情から暑さ対策も十分に練る必要があろう。
何れにしろ、混雑と暑さをできるだけ避けたいのであれば、雨の日か平日の夜に行くなどで対応しないと、大変な思いをするだけで万博の感動が大きく減じる結果になりかねない。


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