2009年09月16日
世界同時不況から1年余り、先進各国の経済回復が思わしくない中、中国経済の復調振りが際立ってきた。2009年第2四半期の実質GDP成長率は7.9%まで回復しており、中国政府も今年の目標である8%成長の達成に自信を深めている。
中でも注目されるのはその成長要因であり、輸出は落ち込んだものの、4兆元の緊急経済対策の実施を梃子に固定資産投資が伸びているのに加え、消費もプラスに寄与しており、内需主導型の成長構造に変化してきている。中国はこれまで相対的に安価で豊富な労働力が魅力となっていたが、現在はむしろ高成長を背景とした所得水準の向上とそれに伴うマーケットの拡大が注目を集めている。消費の動向を代表する小売総額を実質で見ても概ね金融危機前と変わらない水準で底堅く推移しており、国内市場が伸び悩む日本企業にとって地理的にも近く、開拓余地が大きい中国市場はこれまで以上に魅力的と言えよう。
このような中国市場に対し、既に中国に生産拠点を持っている企業が販売機能を追加し生産・販売の両事業を展開するケースが増えてきている。最近特に注目されるのは、最初から中国を消費市場として捉えた商業、サービス業等の参入増加である。
一般的に日本企業の製品やサービスは現地企業に比べ高品質・高価格であり、そのターゲットは必然的にホワイトカラー層など、所得が比較的高い人々となるが、この高所得層の消費データを見ると興味深い特徴がある。
下図は商業・サービス業の進出地域として有望な上海の所得階層別消費データであるが、日本企業の比較的参入しやすい教養娯楽関連に対する支出比率(教養娯楽費の消費支出全体に占める比率)が所得高位層では日本とほぼ同水準まで上昇している。このように高所得層の教養娯楽分野に対する意識は非常に高く、日本企業が提供する各種サービスの有望なターゲットに成り得ると考える。また、中国は日本に比べ外食志向が強いことが特徴であり、高所得層ほどその傾向が顕著になっていることも興味深い。
一方、日本企業の提供する製品やサービスについては、高価だが、高品質・高機能、健康・安全・安心、優れたサービスなど、一般的に評価が高いのが現状だ。このようなイメージは高所得者層が関心を持つ生活の質的向上、健康・安全等の意識向上などにマッチしており、この点からも中国市場は日本企業にとって非常に魅力的な市場ではないかと考える。
但し、中国マーケットを開拓するのは容易ではない。中国国内の地域性、商慣習、品質に対する考え方、公的部門との折衝、販売ルートの確保、良い立地の確保、知的財産権保護、雇用・人材管理等、いずれをとっても日本や先進国でのノウハウだけでは通じないのが実態だ。そのため、消費市場としての中国に参入する場合は、これらの課題に対応できる適切な中国パートナーとの提携が重要であり、その選定が事業の成否に大きく影響する。中国でのパートナー選定に際しては、時間とコストをかけてでも慎重かつ綿密な調査をする必要があり、このステップは中国事業展開に欠かせないイニシャルコストと位置づけることが必要だろう。
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