不祥事や業績不振等で、企業が再興を迫られる場合、従業員には大きなストレスがかかる。きわめて古いデータになるが、いまだ一般によく使われるホルムズとレイの社会的再適応尺度によれば、「ビジネスの再調整(Major Business Adjustment)」のストレスは「親友の死」を上回るとされる。
かつて誇りに思っていた自社のブランドイメージは地に落ち、新聞記事を見るのがつらくなる。第三者委員会が入って、もしくは新しい経営者が来て、今までのやり方を全て見直すよう命じられる。次に自分が残れるかどうかはわからない。不安の中でも、職業人として顧客にそれを見せてはいけない。通常通り業務を遂行しなければならない。
このような場合、企業に再び士気を取り戻すにはどうすればいいだろうか。
再興過程では、従業員の心の再起もビジネスプロセスの見直し同様重要と考えられる。この時に参考になるのが、悲嘆(グリーフ)の5段階受容説だ。一例として悲嘆は以下のようなプロセスをたどると定式化されている。

このような段階受容説には批判もあるが、「正しく嘆くこと(グリーフ・ワークと呼ばれる)」の重要性を明らかにしたことは、評価されるべきだろう。「否認」や「怒り」は再起に重要なプロセスであるが、そこにとどまることは望ましくない。同様に、自分の痛みに目もくれずに再起をはかること、相手の痛みに配慮せずに再起だけを無理やり促すこと、も望ましくない。
では、どうすべきか。一般的には、個人的な悲嘆のプロセスを消化するために、臨床心理士や各種のカウンセラーといった職種の助けを得ることもある。しかし、新しい理念を構築すべく企業再興にあたるためには、一対一の対応では物理的に不可能である。その際に利用できるのが、社員同士のワークショップの手法だ。
社員同士のワークショップで重要なこととしてまず注意すべきは、「場所の安全性」、「発話者の平等性」、「相互の無批判・無助言」そして「個人を責めるより自社の構造問題を理解するように努力する」ことである。つまり、役職や役割に限定されずに、誰でも感じたことを言える「安全性」や「平等性」が担保されていなければならないし、それらの発言に対しては、できるだけ批判や助言を差し控えなければならない。また、問題は会社の「構造」や「仕組み」の中にあって、いたずらに個人や特定の部署を糾弾することには意味は無いということも周知徹底させる必要があろう。
「心の再起」の道は険しい。たとえば重大な安全上の不祥事を引き起こした企業の社員は「加害者であることを引き受ける」ことが前提となる。これは口で言うほどたやすいことではない。
しかし、間違ったことを繰り返さないためにも、従業員の「心の再起」は必要な企てである。社外の第三者がファシリテーターとして、そのサポートをすることも十分に可能なことと考えられる。
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