2015年09月02日
不祥事や業績不振等で、企業が再興を迫られる場合、従業員には大きなストレスがかかる。きわめて古いデータになるが、いまだ一般によく使われるホルムズとレイの社会的再適応尺度によれば、「ビジネスの再調整(Major Business Adjustment)」のストレスは「親友の死」を上回るとされる。
かつて誇りに思っていた自社のブランドイメージは地に落ち、新聞記事を見るのがつらくなる。第三者委員会が入って、もしくは新しい経営者が来て、今までのやり方を全て見直すよう命じられる。次に自分が残れるかどうかはわからない。不安の中でも、職業人として顧客にそれを見せてはいけない。通常通り業務を遂行しなければならない。
このような場合、企業に再び士気を取り戻すにはどうすればいいだろうか。
再興過程では、従業員の心の再起もビジネスプロセスの見直し同様重要と考えられる。この時に参考になるのが、悲嘆(グリーフ)の5段階受容説だ。一例として悲嘆は以下のようなプロセスをたどると定式化されている。

このような段階受容説には批判もあるが、「正しく嘆くこと(グリーフ・ワークと呼ばれる)」の重要性を明らかにしたことは、評価されるべきだろう。「否認」や「怒り」は再起に重要なプロセスであるが、そこにとどまることは望ましくない。同様に、自分の痛みに目もくれずに再起をはかること、相手の痛みに配慮せずに再起だけを無理やり促すこと、も望ましくない。
では、どうすべきか。一般的には、個人的な悲嘆のプロセスを消化するために、臨床心理士や各種のカウンセラーといった職種の助けを得ることもある。しかし、新しい理念を構築すべく企業再興にあたるためには、一対一の対応では物理的に不可能である。その際に利用できるのが、社員同士のワークショップの手法だ。
社員同士のワークショップで重要なこととしてまず注意すべきは、「場所の安全性」、「発話者の平等性」、「相互の無批判・無助言」そして「個人を責めるより自社の構造問題を理解するように努力する」ことである。つまり、役職や役割に限定されずに、誰でも感じたことを言える「安全性」や「平等性」が担保されていなければならないし、それらの発言に対しては、できるだけ批判や助言を差し控えなければならない。また、問題は会社の「構造」や「仕組み」の中にあって、いたずらに個人や特定の部署を糾弾することには意味は無いということも周知徹底させる必要があろう。
「心の再起」の道は険しい。たとえば重大な安全上の不祥事を引き起こした企業の社員は「加害者であることを引き受ける」ことが前提となる。これは口で言うほどたやすいことではない。
しかし、間違ったことを繰り返さないためにも、従業員の「心の再起」は必要な企てである。社外の第三者がファシリテーターとして、そのサポートをすることも十分に可能なことと考えられる。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
M&Aによる人事制度統合の検討
検討初期段階で押さえておきたいこと
2025年03月24日
-
なぜ健康経営の成功は睡眠から始まるのか
健康経営の鍵は適正な睡眠とプロフェッショナル意識の醸成にあり
2025年02月26日
-
J-FLEC認定アドバイザーを活用した職域向けファイナンシャル・ウェルビーイング推進のすすめ
1,000人を超えてきた金融経済教育推進機構(J-FLEC)の認定アドバイザー
2025年01月29日
関連のサービス
最新のレポート・コラム
よく読まれているコンサルティングレポート
-
アクティビスト投資家動向(2024年総括と2025年への示唆)
「弱肉強食化」する株式市場に対し、上場企業はどう向き合うか
2025年02月10日
-
退職給付会計における割引率の設定に関する実務対応について
~「重要性の判断」及び「期末における割引率の補正」における各アプローチの特徴~
2013年01月23日
-
中国の「上に政策あり、下に対策あり」現象をどう見るべきか
2010年11月01日
-
買収対応方針(買収防衛策)の近時動向(2024年9月版)
ステルス買収者とどう向き合うかが今後の課題
2024年09月13日
-
サントリーホールディングスに見る持株会社体制における株式上場のあり方について
2013年04月17日
アクティビスト投資家動向(2024年総括と2025年への示唆)
「弱肉強食化」する株式市場に対し、上場企業はどう向き合うか
2025年02月10日
退職給付会計における割引率の設定に関する実務対応について
~「重要性の判断」及び「期末における割引率の補正」における各アプローチの特徴~
2013年01月23日
中国の「上に政策あり、下に対策あり」現象をどう見るべきか
2010年11月01日
買収対応方針(買収防衛策)の近時動向(2024年9月版)
ステルス買収者とどう向き合うかが今後の課題
2024年09月13日
サントリーホールディングスに見る持株会社体制における株式上場のあり方について
2013年04月17日