2015年度下期・持株会社導入レビュー

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  • コーポレート・アドバイザリー部 主任コンサルタント 真木 和久

2015年度下期(2015年10月~2016年3月)において、「持株会社化」を決定した会社・「持株会社化の解消」を決定した会社がいくつかある。本稿では、それらの背景について考えてみたい。

  1. 2015年10月12日に、九州を地盤とし、ステーキ・ハンバーグを軸に郊外型レストランを展開する、ジョイフルが、持株会社体制に移行すると発表した。会社分割により、2016年1月1日に、傘下に「ジョイフル」店舗の運営事業等の会社を置く。
    プレスリリースには、「当社が今後も安定的な成長を継続していくことを目的に、経営戦略機能と各地域に密着した直営店舗の事業執行機能を分離することで意思決定の迅速化を図り、経営人材の育成と機動的で且つ柔軟な事業運営の実現と、あわせて平成28年10月より適用される社会保障に関する法改正に備える観点から、子会社を設立し、会社分割により持株会社体制へ移行する方針を決定いたしました。」とある。

ジョイフルのケースで特徴的なのは、国内の地域により、11社の子会社(店舗の多い九州地域は5社、その他の地域は6社)を設立することである。持株会社体制移行においては、主要事業につき、1社設立することが一般的であるため、ジョイフルのように地域子会社を設立するケースは珍しい例といえる。


ジョイフル以外に、外食業界で持株会社化を決定した会社としては、丸亀製麺を運営するトリドール(2016年4月12日公表)が挙げられる。

  1. 2016年2月15日に、ダイドードリンコは、会社分割により、持株会社体制に移行すると発表した。2月26日に発表されたプレスリリースによると、2017年1月21日に、ダイドードリンコは「ダイドーグループホールディングス」に商号変更し、傘下に国内飲料事業会社・大同薬品工業他を置く。海外飲料事業を行う海外飲料子会社については、持株会社発足後に、別途新設する方向で検討中とのことである。また、同プレスリリースには、「ダイドーグループは、新たなグループ理念・グループビジョンのもと、2018年度を最終年度とする中期経営計画「Challenge the Next Stage」を推進しています。…(中略)…2018年度には売上高を2,000億円へ、営業利益率を4%に引き上げることを目標としています。」とあり、持株会社体制への移行の目的として、「中期経営計画の達成をひとつの通過点として、次代に向けた企業価値創造へのチャレンジを続けていくことを目的として、グループ経営の基盤強化を図ります。」と記載されている。

上記で見た事例①②は、グループ内の持株会社化である。つまり、現状のグループ内の会社形態を変えることにより、グループが目指す目標を達成しようとするものである。


持株会社化を決断する会社がある一方、持株会社体制を解消した会社もある。

  1. 2016年2月12日に、腕時計大手のシチズンホールディングス(以下、「シチズンHD」)は、100%子会社であるシチズン時計及びシチズンビジネスエキスパートと合併すると発表した(2016年10月1日に合併。新商号は「シチズン時計」)。以下、プレスリリースを一部引用する。「…平成25年4月よりスタートした中期経営計画「シチズングローバルプラン2018」では「『真のグローバル企業』を目指して」というスローガンのもと、徹底した体質強化と製造力強化を目指した構造改革に取り組むとともに、事業ポートフォリオを明確にし、強みを発揮できる事業分野へ経営資源を集中させ、時計事業を中心とした事業の拡大と強化を図る等、一定の成果を得ることができました。」と、2007年4月からの純粋持株会社体制の成果を強調している。しかし、「…当社は平成26年4月より、「時計事業の成長力戦略の加速」と「経営の効率化」を目的に、当社、シチズン時計株式会社及びシチズンビジネスエキスパート株式会社による3社一体経営のもと、様々な取り組みを行ってまいりましたが、「シチズングローバルプラン2018」を更に推し進め、時計事業を中核としたグループ全体の更なる成長と本社機能の強化を図るため、現在の純粋持株会社体制から事業持株会社体制へと移行する準備を開始いたします。」と、持株会社体制の解消理由を記載している。2016年4月27日のプレスリリースにおいて、「移行後は、純粋持株会社体制下において構築したグループ運営の利点を維持しつつ、新しい体制で更なるグループの競争力強化を図り、当社グループの企業価値・株主価値の向上に努めてまいります。」とあり、持株会社体制の利点を今後も維持していくことが強調されている。

シチズンHDは、2007年から持株会社体制に移行し、一定の成果を得た。しかし、その後の戦略変更により、3社一体運営に軸足を切り替えたことが、持株会社解消の契機になったと考えられる。


種々の理由により持株会社体制を解消する会社もあるが、現在、幅広い業界で持株会社体制が導入されている。


持株会社化には、グループ内の持株会社化以外に、経営統合としての持株会社化もある。以下では、その事例を見てみよう。

  1. 2016年1月21日に、福島を拠点とするホームセンター中堅のダイユーエイトと、岡山を拠点とし、ホームセンター・ペット店を展開するリックコーポレーションが、株式移転による経営統合を公表した。共同株式移転により、2016年9月1日付けで持株会社であるダイユー・リックホールディングスがスタートし、傘下にダイユーエイト、リックコーポレーションを抱える。新体制では、持株会社が上場会社となり、ダイユーエイト、リックコーポレーションは上場廃止となる見込みである。ダイユーエイトとリックコーポレーションは、次のシナジー効果の創出を想定しているとのことである。
    1. 「共同仕入・共同開発」
    2. 「新規事業開発の推進」
      「「ペットワールドアミーゴ」を展開するペット事業を統合・分社化することで、ショップブランドの確立が可能になるとともに、全国展開を視野に入れた店舗展開・事業戦略によりペットショップ日本一を目指します。」
    3. 「M&Aの推進強化」
    4. 「経営基盤の強化」
    5. 「コーポレートガバナンスの強化」
      (以上1~5は、プレスリリースによる)


ダイユーエイトとリックコーポレーションが属するホームセンター業界においては、少子高齢化等により消費マーケットが縮小し、企業間競争が激化する可能性が高い。ダイユーエイトとリックコーポレーションは、この中で、生き残りをかけて、経営統合を決断したものと思われる。国内マクロ環境の大幅な改善は見通しにくいため、このようなホームセンターを含む流通業界の再編は、今後も増えていくのではないかと考えられる。


今回の再編は、「守り」だけでなく、今後も成長が見込まれるペット市場の将来を見据えた「攻め」の動きであることにも、注目したい。


コーポレートガバナンス・コードの適用等、企業を取り巻く環境は、より厳しさを増している。今後、「攻め」の経営戦略に基づいて、持株会社体制を選択する会社も増えてくるのではないだろうか。


最近の傾向として、「事業の自立」や「グループ経営効率の追求」を加速させる経営インフラとして、持株会社体制を導入する会社が増えていることを実感する。10年以上に亘り、大和総研は数多くの持株会社体制移行の支援を行ってきた。今後も相談先の一つとしてご検討頂ければ、幸いである。

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