コーポレートガバナンス・コードが変える会社の形

監査等委員会設置会社/指名委員会等設置会社への移行、持株会社体制への移行について考える

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  • マネジメントコンサルティング部 主席コンサルタント 弘中 秀之

コーポレートガバナンス強化に向けた検討ポイント

コーポレートガバナンス・コードが策定され、経営の監督と執行の分離、社外取締役の複数選任、取締役会における審議の活性化などこれに関わる様々な論点が提起されている。


また、会社法の改正(2015年5月1日施行)により、監査等委員会設置会社という新たな機関設計も選択できるようになり、監査役会設置会社や指名委員会等設置会社とあわせ、機関設計の幅も拡がった。


このような流れの中、ガバナンスの強化や機関設計の見直しをするにあたっては、グループ管理体制として、純粋持株会社がよいのか、事業持株会社がよいのか、ワンカンパニーがよいのか、ということも一度整理しておきたいポイントだ。グループ管理体制や機関設計の形には、それぞれ特徴があり、その特徴を強く活かすための組み合わせを考えていくことが重要となる。


例えば、コーポレートガバナンス・コードで示されている大きなテーマのひとつとなる経営の監督と執行の分離については、事業会社体制よりも持株会社体制の方がより明確になる。持株会社の機能をグループ戦略策定やその監督に特化し、業務執行に関する権限は事業会社に移譲するというようなことが考えられるからだ。


さらに、持株会社において「取締役の過半数を社外取締役にする」、「社外取締役に求める役割を明確にする」ことや、「取締役等の経営陣幹部の選解任」や「役員報酬の審議」等を通じ経営を監督することを取締役会の役割として重視する姿勢を打ち出すことも考えられる。このような組み合わせを考え、明確なメッセージとして発することができれば、経営の監督と執行の分離という点では、株主や投資家からは、強力なガバナンスを効かせた組織と見えることであろう。


上記に加えて、監査等委員会設置会社や指名委員会等設置会社という機関設計を組み合わせることで、さらに強力なガバナンスを効かせた組織となるはずだ。


ただし、単に持株会社と監査等委員会設置会社や指名委員会等設置会社を組み合わせるだけでは印象は違ったものとなる。社外取締役の人数や、各委員会の委員構成は留意点となる。


ここまで、コーポレートガバナンス強化に向けた考え方の一例を示してきたが、これらはあくまで形式の一例である。本来求められるものは形式ではなく、内容を伴ったコーポレートガバナンスである。


いくらガバナンスを効かせたように見える組織を構築したとしても、それを機能させる仕組みを作らなければ、経営の監督と執行の分離などの実態が伴ったガバナンス強化には結びつかない。例えば、社外取締役が本来求められる役割や責務を果たすために必要となる仕組みや情報提供等の支援体制が整っていないケースや、持株会社から事業子会社への権限委譲が十分でないというようなケースだ。

動き始めたコーポレートガバナンス体制強化に向けた取り組み

コーポレートガバナンス強化に本気で取り組んでいる会社は着実に増加している。例えば、社外取締役が過半数を占める会社として、監査役会設置会社では、亀田製菓、カルビー、アステラス製薬、昭和シェル石油などが挙げられる。委員会設置会社では、クックパッド、エーザイ、エステー、日立製作所、HOYAなどがある。


また、持株会社体制の下で、社外取締役が過半数を占める会社としては、監査役会設置会社では、ベネッセホールディングス、ファーストリテイリングなどが挙げられる。委員会設置会社では、スミダコーポレーション、イオン、りそなホールディングス、日本取引所グループなどが挙げられる。


2015年に入り、持株会社体制移行とあわせ、監査等委員会設置会社への移行を発表したコスモ石油やバイテックのような会社もある。


三菱東京UFJフィナンシャル・グループは、現在の持株会社体制の下、「コーポレート・ガバナンス態勢の更なる高度化」を目的に指名委員会等設置会社へ移行することを先日発表した。


ここで挙げた会社のように、ガバナンス体制強化の取り組みを、何年も前から既に実施している会社もあれば、この機会にいち早く対応しようという会社もある。しかし、それ以外の多くの会社では、これからどう対応しようかと考えている段階ではないだろうか。

コーポレートガバナンス体制見直しにあたって

コーポレートガバナンス・コードで示されている「株主の権利・平等性確保」「株主以外のステークホルダーと適切な協働」「適切な情報開示と透明性の確保」「取締役会等の責務」「株主との対話」の5つの基本原則、それに基づく「原則」、「補充原則」の中には、今までの自社の考えと違う、もしくは対応していなかった項目があるかも知れない。


そのような項目への対応を検討する過程で、自社のコーポレートガバナンスの再定義の必要性を考える経営者もいるであろう。


その際に一番大切なことは、会社をどうしたいのかといった方向性を決めることである。内向きの経営を続けるのか、形式的なガバナンス体制を構築するのか。それとも株主や投資家、その他ステークホルダーとの積極的な対話を通じ、外部からの意見に耳を傾けることで、会社を本当に良くしようとする姿勢に転換するのか。


コーポレートガバナンス体制の見直しにあたっては、様々な検討課題がある中で、社外取締役に求める役割やその人数の検討と、監査等委員会設置会社や指名委員会等設置会社などの機関設計との組み合わせをどうするかは、重要なポイントとなる。


その際に、持株会社などのグループ管理体制がコーポレートガバナンスに与える影響について検討することも忘れないようにしたい。

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