コーポレート・ガバナンスの強化における持株会社体制の効果

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2014年10月29日

  • 矢幡 静歌

これまでに持株会社に移行した上場企業の数は400社(予定含む)を超え(※1)、国内の上場企業の10%以上を占める。大和総研では今まで持株会社体制への移行に係る支援を多く手掛けたが、持株会社体制を採用する目的としてM&Aの推進強化や経営の意思決定の迅速化、新規事業の開拓、後継者人材の育成、さらにはコーポレート・ガバナンスの強化を挙げる企業が多い。本稿では、ガバナンスの強化における持株会社体制の効果について考えてみたい。


会社法で定められている取締役会(委員会設置会社の取締役会を除く)の職務には、取締役の職務執行の監督や代表取締役の選定および解職の他に、業務執行の決定が含まれている。つまり、取締役会に監督機能と業務執行機能が並存しているのである。そのため、取締役会で決議する議題には業務執行に関連するものが含まれており、執行案件の検討や決定にも時間を費やすことから、経営の監督には特化しない仕組みである。ガバナンスという点では有用性を高める余地があると言える。


純粋持株会社体制では、持株会社は事業を行わずグループ戦略の策定およびグループ経営の監督に業務として特化し、取締役会は法定事項の決議、重要な経営方針・戦略の策定や事業子会社の業務執行の監督を担っている。同時に、事業に係る業務執行の権限のほとんどは事業子会社が有している。そのため、持株会社と事業子会社それぞれの役割や責任が明確であり、持株会社が経営の監督に特化できることから、持株会社体制はガバナンスを運用する器として有用であると考えられる。


さらに、ガバナンスの運用において社外取締役を如何に持株会社に組み込み、活用するかという点が今後注目される。今年実施された社外取締役の起用に焦点を当てた会社法の改正(※2)や、独立役員に関連する東京証券取引所の有価証券上場規程の改正(※3)に伴い、上場企業の社外取締役の選任・起用に対する機運が高まっている。経営の監督に特化する役割を持つ社外取締役を持株会社に配置することは、取締役会における経営の監督機能向上とうまくマッチする。持株会社では中心となる審議事項がグループ経営の監督やグループ戦略の策定となるため、社外取締役が参画する体制として適しているのである。


本稿では、持株会社がガバナンスにおいて果たす役割を論じてきた。持株会社においてガバナンスを確実に機能させるには、主に以下のポイントが挙げられる。

  1. 持株会社と事業子会社の役割・権限を明確化する。
  2. 社内の取締役と社外取締役に求める役割の違いを理解したうえで、取締役会で社外取締役が十分に機能できるように、審議事項は経営の監督に関連するものに絞る。

これらに留意して、ガバナンスの運用を行うことが持株会社に求められる。


(※1)2014年6月時点の大和総研調査。
(※2)2014年6月に会社法が改正され、社外取締役がいない場合は社外取締役を置くことが相当でない理由を事業報告書に記載するとともに、株主総会において説明する義務が課されることとなった。また、社外役員(社外取締役および社外監査役)の要件が厳格化された。
(※3)2014年2月に上場規程が改正され、取締役である独立役員を少なくとも1名以上確保するように努める努力義務が課された。

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