2014年度上期・持株会社導入レビュー

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2014年10月15日

  • コーポレート・アドバイザリー部 主任コンサルタント 真木 和久

2014年度上期(2014年4月~2014年9月)において、「持株会社化」を決定した会社・「持株会社化の解消」を決定した会社がいくつかある。本稿では、それらの背景について考えてみたい。

  1. 5月7日に、半導体装置のウエハ洗浄装置で世界トップメーカーである、大日本スクリーン製造が持株会社体制に移行すると発表した。会社分割により、2014年10月1日に、大日本スクリーン製造は「SCREENホールディングス」に商号変更し、傘下に半導体機器事業・FPD機器事業・メディアアンドプレシジョンテクノロジー事業等の会社を置く(効力発生日は、一部が2014年11月1日に延期となった)。これら事業子会社に加え、製造支援及び製造請負業務を営む会社やシェアードサービス業務を行う会社を設立する。大日本スクリーン製造は2014年4月に、中期3カ年経営計画“Challenge2016”をスタートさせている。この達成に加え、「各事業に対し明確な責任と権限を与え、持株会社の強力な統制のもと、機動的かつ大胆な経営判断を可能とすべく」純粋持株会社体制への移行を決定した(プレスリリースによる)。

上記で見た事例①は、グループ内の持株会社化である。つまり、現状のグループ内の会社形態を変えることにより、グループが求める持株会社化の目的を達成しようとするものである。


持株会社化には、グループ内の持株会社化以外に、経営統合としての持株会社化もある。以下では、その事例を見てみよう。

  1. 5月19日に、マルエツ、カスミ、イオン、丸紅(以下、「4社」)が、マルエツ、カスミ、イオンの連結子会社のマックスバリュ関東(以下、「MV関東」)による、「首都圏におけるスーパーマーケット連合」の創設について、具体的な検討を開始することで合意した。株式移転により、2015年3月に、共同持株会社がスタートし、傘下にマルエツ、カスミ、MV関東を抱える。共同持株会社は東証1部上場見込みであり、イオンが共同持株会社株式の過半数を保有する方針とのことである。プレスリリースには、「…環境変化を見据え、4社は共通する理念『お客様第一』『地域社会への貢献』のもと、お客さまにより豊かな食生活を提供することで質と規模の両面で首都圏ナンバーワンのSM企業となること、そのためには、首都圏市場の規模にふさわしいSM連合体を形成し、各社の総力を結集してSM業態の革新を図る必要があるとの認識で一致し、具体的な検討を開始することといたしました。」と記載されている。首都圏でのシェア拡大を狙ったイオン主導の再編と考えられるが、その後、イオンは都市部に店舗が多いダイエーの完全子会社化を公表(9月24日)している。
  2. 8月1日に、マークス、おーばんホールディングス(以下、「おーばんHD」)、キクチ、マイヤ、マエダが、株式交換による経営統合を公表した(マークスを完全親会社とする)。株式交換により、2014年10月4日付けで新マークスがスタートし、傘下におーばんHD、キクチ、マイヤ、マエダを抱える。プレスリリースには、「おーばんHD(傘下企業に㈱おーばん、㈱うめや)、キクチ、マイヤ、マエダ(以上の4社を総称して以下『グループ4社』といいます)は、2010年に共同仕入れ会社マークスを設立し、自助努力と相互扶助の精神に基づく強固なパートナーシップを構築して参りましたが、このような事業環境の中で、グループ4社がさらに経営基盤を強化し、企業としての成長を図っていくことが必要であるとの認識で一致しました。今回の経営統合は、『自助努力と相互扶助による強固な企業づくりを通じてお客様の豊かで楽しい暮らしに貢献する』というマークスの経営理念をさらに進化させるものです。」と記載されている。

グループ4社は、いずれも東北の食品スーパーかつ非上場会社である。地方の食品スーパー業界においては、少子高齢化等により消費マーケットが縮小し、企業間競争が激化する可能性が高い。グループ4社は、この中で、生き残りをかけて、経営統合を決断したものと思われる。国内マクロ環境の大幅な改善は見通しにくいため、このような小売業の再編は、今後も増えていくのではないかと考えられる。


持株会社化を決断する会社がある一方、持株会社体制を解消した会社もある。

  1. 9月17日に、カジュアル衣料店を主たる事業とする、アダストリアホールディングスは、持株会社を廃止し、事業会社に移行すると発表した(2015年3月1日に合併)。同社は、2013年9月に、ポイント、トリニティアーツ、NATURAL NINE HOLDINGSの経営統合により、発足した会社である。以下、プレスリリースを一部引用する。「移行後約1年が経過し、各社の企業文化の相互理解と諸制度の統合が進む一方で、商品企画力の向上、意思決定のスピードアップ、効果的な広告宣伝政策や店舗配置の最適化、間接部門の経費削減、仕入れ・物流体制の一層の合理化等を図り、早期の業績向上を図ることが必要な状況にあります。そのため統合によるメリットを十分に活かすには、さらなる組織再編が必要であると判断し当社が主要な事業主体である小売り2社…と合併することといたしました。」

最近の持株会社のキーワードは、「グローバル化」と「グループ経営効率の追求」である。典型的な事例として、サンデンの例を紹介したい。

  1. 1月28日に、サンデンは、持株会社体制への移行を公表した(移行日は2015年4月1日)。同社は、カーエアコンのコンプレッサー世界トップクラスの会社であり、自販機・店舗用冷機も手掛けている。海外売上比率は66%と、グローバルに事業を展開している。
    プレスリリースより、持株会社体制への移行の目的を引用する。
    1. グローバル経営機能の強化
      持株会社は、全社最適な経営戦略の企画及び立案と経営資源の最適配分を実現します。
    2. 事業競争力の強化
      各事業会社については、責任・権限の明確化や意思決定のスピード化及び事業環境に適した機動的な業務執行により、新たな顧客価値を創造していきます。
    3. 新商品開発力の強化
      戦略的なグループ経営資源の配分を行い、新事業領域の拡大に向けた商品開発を加速していきます。
    4. グループ経営効率の追求
      グループ全体の共通機能を集約し、専門機能の高度化及び業務の効率化を図ります。」


その後、5月12日及び5月22日に、分割準備会社設立・分割契約締結のプレスリリースが公表されている。分割契約の中で注目すべきは、事業会社5社に加えて、技術開発機能や総務、経理、人事、物流等の業務に関する機能も分社化することである。これは、上記目的(4)グループ経営効率の追求を意図したものであろう。


事例①においても、シェアードサービス会社の設立を行うこととされており、今後、このような事例が増えてくることも考えられる。


10年以上に亘り、大和総研は数多くの持株会社体制移行の支援を行ってきた。最近の傾向として、「グローバル化」や「グループ経営効率の追求」を加速させる経営インフラとして、持株会社体制を導入する会社が増えているのも、実感としてある。


こういったことを考える際、大和総研も相談先の一つとしてご検討頂ければ、幸いである。

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