持株会社体制における知的財産活動の運営体制の在り方

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2014年03月27日

  • 水上 貴史

持株会社体制下での知的財産戦略は、各事業会社で個々に実行すればよいというものではない。知的財産の中には、「グループ全体に寄与するような基礎研究に関わるもの」や、「既存事業に属さず、グループの将来事業のもの」も含まれるためである。グループ経営の立場から、これらと「各事業会社に直結するもの」とのすみ分けやバランスをとることが要求される。


すなわち、持株会社体制においては、グループ全体の知的財産を調整できる体制作りが重要といえる。以下、持株会社体制を導入しているシチズンホールディングス、旭化成と、持株会社体制時代のコニカミノルタホールディングスの3社を例に、持株会社体制における知的財産活動の運営体制をみていく。

1.シチズンホールディングスの運営体制

シチズンホールディングスのグループ組織では、持株会社が研究部門(以下“R部門”という)と知的財産部、事業会社が開発部門(以下“D部門”という)を有している(※1),(※2)


持株会社の知的財産部は、R部門のみならず、コアとなる事業会社3社(シチズン時計、シチズン・システムズ、シチズン・マシナリー)の知的財産活動も支援している。3つの事業会社には知的財産部門が配置されていない。各事業会社のD部門には知財担当者が在籍しており、持株会社の知的財産部は、彼らを介して発明者と意思疎通を図り、グループ内の主要知的財産を一括集中管理している。


ただし、知的財産の費用負担に関しては区別されている。R部門の知的財産コストや、既存事業に結びつかない未使用特許の維持管理費用はシチズンホールディングスが費用を負担し、D部門の知的財産コストは事業会社が費用を負担している。


なお、コアとなる事業会社3社以外の事業会社については、各々に知的財産部門が設けられている。持株会社の知的財産部と協力関係にあるものの、独立した活動を展開している。

2.旭化成の運営体制

旭化成のグループ組織では、持株会社がR部門、事業会社がD部門を有している(※3),(※4)。持株会社の新事業本部内に知的財産部があり、グループ全体の知的財産活動を担っている。


各事業会社に所属する知的財産部員は、持株会社の知的財産部員でありながら、担当の事業会社を兼務している。これにより、各事業会社の経営・技術戦略と一体となって活動し、知的財産権の発掘・権利化及びその権利行使を行っている。事業ごとの知的財産戦略は、それぞれの事業会社が中心となって、事業形態に対応した戦略を立案している。


また、知的財産部員は専門スタッフ化されており、①知財リエゾン(特許戦略、出願管理)、②知財交渉(係争・契約対応)、③商標、④技術情報(技術情報調査・情報管理)、⑤企画管理(知財全般の企画推進等)の各グループに属し、ミッションに応じた知的財産活動を行っている。


すなわち、持株会社の知的財産部では、事業会社別に担当が分かれていて、かつミッション(専門)別に対応するという、マトリックス的な組織体制が構築されている。

3.持株会社体制下でのコニカミノルタホールディングスの運営体制

コニカミノルタホールディングスのグループ組織では、R&D部門および知的財産部門が持株会社傘下の機能会社(コニカミノルタテクノロジーセンター)で運営されていた(※5),(※6)


同センターでは、持株会社から研究開発企画を受け、主に新規事業創出に向けた技術開発を行うとともに、各事業会社からも研究開発企画を受け、既存事業の強化及び業容拡大に向けた技術開発を遂行する。また、同センターは知的財産の取得から管理までを行う。知的財産権は、同センターから委託元の持株会社あるいは事業会社へ移管される。


研究開発企画のテーマ設定に関しては、4つの会議体を通じて慎重に審議される。具体的には、「テーマ進捗評価委員会」(各事業会社開発部門の部長クラスで構成)で、最終ゴールの目標達成見込みや技術的優位性などを審議した後に、「技術評価委員会」(各事業会社の開発責任者で構成)で、“コニカミノルタが取り組むべきテーマか”、“持株会社が費用負担すべきテーマか”などの事業面での総合的な判断がなされる。その後、審議を通過したテーマに関しては、「グループ技術戦略会議」(各事業会社の開発責任者とホールディングス経営戦略部長で構成)、さらに持株会社での「経営審議会」にはかられる。


1,2は知的財産部門が持株会社にあり、3は知的財産部門が持株会社傘下の機能会社にある事例だが、先に挙げたシチズンホールディングスも、持株会社体制移行時は、R部門および知的財産部が、持株会社傘下の機能会社(シチズンテクノロジーセンター)で運営されていた。その後、1年ほどでシチズンテクノロジーセンターはシチズンホールディングスに吸収されたが、理由としては、「ホールディングスとの緊密な一体経営を図り、グループ戦略とリンクした開発戦略の展開を図ること」および「より市場ニーズを起点とした開発運営を推進すること」を挙げている(※7)


これは、グループ全体の経営戦略に沿ったうえでの知的財産戦略あるいは研究開発戦略(R部門の戦略)の必要性が問われているものと思われる。シチズンホールディングスの場合、持株会社内に必要組織を組み入れたことでこれら戦略を一元管理できるようにし、機能修復を図ったものと考えられる。


 以上、3つの事例を挙げたが、特徴をまとめると、シチズンホールディングスでは持株会社で知的財産活動を集中管理、旭化成では知的財産部員が持株会社と事業会社を兼務して連携性を構築、コニカミノルタホールディングスでは会議体で綿密に研究開発のテーマ設定をしたうえで、グループ内の機能会社が研究開発から知的財産管理までを一手に請け負っている。


 持株会社体制を検討する製造会社などは、知的財産戦略がグループ全体で機能するように、このような体制作りも合わせて検討していく必要があろう。


(※1)2007年4月に事業部門の分社化により持株会社体制に移行。
(※2)富士経済「パテント戦略徹底分析調査2010」を参照。
(※3)2003年10月に事業部門の分社化により持株会社体制に移行。
(※4)旭化成グループ「知的財産報告書2013」を参照。
(※5)2003年8月にコニカとミノルタの経営統合により持株会社体制に移行。その後、カメラ事業の撤退、複合機等の事務機器事業への転換を遂げ、統合作業が完了したことを受けて持株会社を終えた。
(※6)技術情報協会「研究開発リーダー」(Vol.6, No.2 2009)の記事「コニカミノルタホールディングスにおける研究開発テーマの評価、その判断基準と仕組み」を参照。
(※7)シチズンホールディングス 平成20年3月25日プレスリリース「シチズンテクノロジーセンター株式会社の吸収合併(簡易合併・略式合併)に関するお知らせ」を参照。2008年7月にシチズンテクノロジーセンターを吸収合併。

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