持株会社体制におけるR&D組織の在り方

RSS

2013年12月11日

  • 水上 貴史

近年、持株会社制への移行による企業再編が行われているが、製造業において、研究開発(R&D、Research and development)部門の配置は、重要な検討項目の1つに値する。特に、研究部門(いわゆる“R”)と開発部門(いわゆる“D”)を切り分けるかどうか、法人格を与えて独立組織とするかどうか、といった点は議論の争点となる。


持株会社体制の企業グループに見られるパターンとしては、①RとDを切り分け、持株会社にR、中核的な事業会社にDを設置する「分離タイプ」、②RもDも中核的な事業会社に設置する「非分離タイプ」、③R&D機能自体を分離独立し、R&D専門会社を新設する「会社化タイプ」などが挙げられる。


「分離タイプ」の長所としては、Rが事業部門から切り離されることで、Rで既存の事業領域にとらわれないイノベーティブな環境を構築しやすいことである。一方、留意点としては、Rの研究領域が発散し、事業化への道のりの遠い研究が増える可能性が高まる点に注意が必要である。


同タイプの事例としては、旭化成がある。特徴としては、同社は持株会社において、新規事業部の傘下に、知的財産部と、長期視点で研究を行う研究機関が配置されている。これらの組織が密に連携することで、各事業会社単独では扱うのが難しい領域も持株会社でカバーし、新事業開発につなげられるように体制が組まれている。


次に「非分離タイプ」であるが、長所としては、異なる事業を展開している場合に、それぞれの事業戦略に見合った研究開発が行いやすいことである。一方、留意点としては、Rが既存事業の領域にとらわれやすくなり、Dを意識したテーマに偏る可能性が高まる点に注意が必要である。


同タイプの事例としては、富士フイルムホールディングスがある。同社は中核事業会社として、富士フイルム、富士ゼロックス、富山化学工業を有している。特徴としては、それぞれ独自に研究開発を行う一方、富士フイルムに属する富士フイルム先進研究所が、全社横断的な調整・融合を図る役割を担い、他の研究所とのシナジー創出を行っている。


最後に「会社化タイプ」であるが、長所としては、研究開発が一元管理されるため、事業会社間での重複した研究テーマを極力減らすなどの調整が行いやすくなることである。一方、留意点としては、研究開発組織が法人化により、持株会社や事業会社と距離を置くために、グループ戦略としての意向が研究開発に伝わりにくくなる可能性が高まる点に注意が必要である。


同タイプの事例としては、DOWAホールディングスがある。同社グループのDOWAテクノロジーが、グループ内での全ての事業の研究開発を扱っている。特徴としては、DOWAテクノロジーでは、各研究者が、製品の研究や、製造ラインの設計から、設備の改善、保全に至るまで、実に幅広いフェーズに携わる。これにより、全体を見通せる思考力の高い研究者の育成が図られている。


どのようなタイプがベストであるのかは、事業特性や会社組織に基づいて検討すべきである。事業によっては、RとDの境界ラインが見えず、技術的に切り分けが難しい場合もある。持株会社体制を検討する際は、各パターンを自社に照らし合わせながら、最適な体制を考えていくことが望まれよう。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

関連のサービス