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2017年の新たな健康経営のテーマは「つながり」

~食事、運動、睡眠に次ぐ4本目の柱~

2016年12月14日

経営コンサルティング部 主任コンサルタント 枝廣 龍人

2016年も残すところあとわずかとなった。日銀によるマイナス金利政策の導入やトランプ次期米大統領の誕生など色々なことがあった2016年であったが、本年は「健康経営(※1)」という言葉が広く普及した年としても位置づけられそうだ。安倍首相は8月3日の内閣改造の目玉として「働き方改革担当大臣」を新設し、続く8月22日、経済産業省は「健康経営優良法人 ホワイト500」認定制度の開始を発表した。中小企業における健康経営の普及では、東京商工会議所が「健康経営アドバイザー研修」を開始し、健康経営アドバイザーの輩出を進めている。『世界のエリートがやっている 最高の休息法』(久賀谷亮、ダイヤモンド社、2016年7月)などの健康関連本が、Amazonビジネス実用本の売れ筋ランキング上位に登場するようになったことも、就労者の健康意識の高まりを示している。こうした流れは、今後も健康経営の発展と定着を後押しするだろう。


さて、2017年の健康経営のテーマはどのようなものになるだろうか。


食事、運動、睡眠が健康経営の重要な3本柱であり続けることは、もはや疑いようがない。健康経営に取り組む大企業の多くは、野菜を中心とするヘルシーメニューの提供(食事)、ウォーキングチャレンジ(運動)、長時間労働の是正(睡眠)などを行い、従業員のヘルシーなライフスタイル、ワークスタイルの定着をサポートしている。健康診断やストレスチェックは、こうした施策の効果測定を支えている構図である。


こうしたなか、筆者は、2017年の健康経営には「つながり」が4本目の柱として加わるであろうと考えている(図表1)。

図表1:心身の健康増進と組織の活性化

「つながり」は、どのように健康につながるのだろうか。予防医学研究者・医学博士であり、㈱Campus for H共同創業者でもある石川善樹氏らは、2016年の研究論文(※2)において、地域コミュニティの中で重要な役割(会長、世話役、会計係など)を担っている65歳以上の高齢者は、そうではない高齢者よりも、死亡率が12%低かったことを明らかにした。この因果関係の検証について、石川氏はさらなる研究が求められるとしているが、「誰かの役に立っている」「誰かに必要とされている」と感じることが心身の健康を保つという考え方は、直感的にも理解しやすい。


また、「つながり」は、経営学の見地からもその有効性が指摘されている。早稲田大学ビジネススクール准教授の入山章栄氏は、著書『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版、2012年)のなかで「トランザクティブ・メモリー」の重要性について言及している。「トランザクティブ・メモリー」とは、組織内において「Who Knows What(誰が何を知っているか)」がよく共有されていることであり、この「トランザクティブ・メモリー」の構築には、ビジネス上のメールや電話のコミュニケーションではなく、むしろ、インフォーマルな直接のコミュニケーションが重要であるとのことである。


これらのように、「つながり」は心身の健康を保つだけではなく、企業組織の柔軟性と革新性を高める効果も期待されている。少子高齢化と世帯の単身化が同時に進む日本社会において、企業が就労者に「つながり」の機会を提供することは、損得にとどまらない社会的な意義も大きい。


どのような形で企業が就労者に「つながり」の機会を提供することが適切かについては、企業ごとに個別に考える必要があるだろう。一言に「つながり」といっても、年代ごとのつながり、社内外のつながり、地域のつながりなど色々な切り口がある。上述の石川氏らの研究結果にしたがえば、就労者一人ひとりが、コミュニティのなかで運営的な立場に立つことも望ましい。


いずれにしても、まずは責任者と目標を決め、具体的な取り組みを始めることが第一歩である。たとえば、東京都内のとある情報通信企業は、地域の商店会と共同で地域のお祭りをプロデュースし、従業員が地域コミュニティにおいてリーダーシップを発揮する機会を提供している。こうした取り組みを継続的に行うことによって形成された「つながり」は、他社がどんなにお金をかけたとしても、簡単には真似できないものになるだろう。


(※1)健康経営とは、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することであり、労働基準法や労働安全衛生法といった法令に求められる範囲を超え、企業が主体的に従業員の健康を維持増進する取り組みのこと。NPO法人健康経営研究会の登録商標。
(※2)Yoshiki Ishikawa et al. ”Social participation and mortality: does social position in civic groups matter?”, BMC Public Health BMC series, 12 May 2016

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