運用3年目を迎えた取締役会の実効性評価の概況と2018年に向けた視点

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  • コーポレート・アドバイザリー部 主任コンサルタント 吉川 英徳

コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の導入に伴い、日本において取締役会の実効性評価(以下、取締役会評価)が普及し始めて、3年目を迎えようとしている。CGコード適用初年度では取締役会評価の実施率は36%(676社)に留まっていたが、直近では71%(1,812社)まで増加している。適用初年度は、多くの企業は取締役会評価を「実施」する意向を有しているものの、一種の「聖域」であった取締役会を評価すると言った概念に馴染みがなく、評価手法や開示内容といった取締役会評価の実務について手探り状態だったことから、実施率が低水準に留まっていた。しかしながら、CGコード運用も3年目を迎え、多数の開示事例が出てきたこともあり、取締役会評価の実務も一定の目線が固まるフェーズに入りつつある。本稿に於いては、コーポレートガバナンス報告書等に開示されている資料に基づき、日本企業の取締役会評価の近時動向等を整理すると同時に、2018年に向けた示唆を考えていきたい。

取締役会評価の実施率及び実施社数の推移

まずは、取締役会評価の評価手法について整理する。図表2は主な取締役会評価の手法(重複あり)について開示ベースで集計した図表である。東証1部・2部上場で取締役会評価を実施した企業の約7割がアンケート(質問票)方式で行っていることを明記しており、取締役会評価の手法として一般的となっている。アンケート方式以外にも、インタビュー(ヒアリング等)方式やディスカッション(取締役会等での議論)方式、第三者機関による直接観察方式等があるが、インタビュー方式の採用は同約1割(他評価手法との重複含む)、ディスカッション方式の採用は同約3割弱(同)となっている。取締役会の多面的な評価という視点からは、インタビュー方式の活用等の評価手法の多様化が望まれよう。


規模別の比較では、規模が大きい企業ほど、アンケート方式に加え、インタビュー方式やディスカッション方式を取り入れている傾向がある。また、外部専門家についても、規模が大きい企業の方が活用している傾向がある。例えば、TOPIX100採用企業の取締役会評価の実施率は96%で、実施企業の約7割がアンケート方式、約3割がインタビュー方式、約4割がディスカッション方式を採用している。また。外部専門家の活用も約2割となっている。規模が大きい会社は概して外国人を中心とした機関投資家比率が高く、外部株主への説明責任を果たす意識が高いうえ、取締役会事務局等の機能も充実していること等が理由として挙げられる。

規模別の取締役会評価の手法一覧

さらに、アンケート方式等における評価項目について整理すると、全体的にCGコードに準じた評価項目になっている傾向が高い。一般的な評価項目としては、「取締役会の構成や審議・運営」、「社外取締役への支援体制」、「株主との対話」等の評価項目が多い。また、「リスクマネジメント」や「サクセッションプラン」「役員報酬のあり方」等を評価項目としている企業も見られた。企業によっては、「取締役会の付属委員会(指名・報酬委員会など)」についても評価を行っている企業もあった。前項で紹介した基本的な評価項目に加え、特徴的な評価項目としては、「前年度の取締役会評価のフォローアップ」「ボードカルチャー(取締役会文化)に関する状況」等があげられる。


・前年度の取締役会評価のフォローアップ
取締役会評価が2回目・3回目となる企業に於いては、前回の取締役会評価結果に対するフォローアップを行っている企業が見られた。取締役会評価は、単に「評価」で終わるツールではなく、取締役会の実効性向上に向けたPDCAサイクルを回すために、取締役会の課題を抽出し、改善に向けたアクションを行うためのツールである。取締役会として改善アクションやその効果等を適切にモニタリングするという観点から、前年度の取締役会評価で抽出された課題等のフォローアップは重要な評価項目であると考える。規模別で見ると、取締役会評価を実施した企業のうち、前年度の取締役会評価の結果のフォローアップ等に言及している企業の割合は東証1部・2部で12%だったのに対し、TOPIX500で24%、TOPIX100では38%となっている。規模が大きい企業ほど、前年度の取締役会評価に対するフォローアップを行っており、取締役会の実効性向上に向けたPDCAサイクルの確立に向けた意識が高いことがうかがえる。


・ボードカルチャー(取締役会文化)
一部の企業ではボードカルチャー(取締役会文化)といった取締役会の関係性について評価している事例も見られた(図表3)。ボードカルチャー(取締役会文化)は、図表4に示すように、取締役会における戦略に関する議論や意思決定等の土台である。例えば、取締役会全体のチームとしての一体性、他者の意見を尊重する文化、多面的な視点で議論しようとする雰囲気、新しい考え等を積極的・貪欲に取り入れようとする姿勢等、取締役各個人だけでなく、取締役会全体として有している必要がある。取締役会評価においてそのような取締役会文化を評価項目に加えることによって、自社の取締役会の持つ「空気感」を再認識することで、必要に応じて「空気を変える」必要があると考える。

SUBARUの2016年度の取締役会評価の項目
取締役会の意思決定における基本的な視座

2018年の取締役会評価に向けた示唆としては、より実質的な実効性の評価に向けた、①評価手法の深掘り、②評価項目の変更、等が挙げられる。評価手法については、現状は多くの企業がアンケート方式を採用しているが、各役員(取締役・監査役)の意見を引き出すには、インタビュー方式等を併用するとより有効であると思料する。インタビュー等を通じて、取締役会の現状に対する各役員の「本音」をいかにうまく引き出すか。また、共通の課題認識を醸成するかがポイントとなる。外部の客観的な視点を活用するという観点では、インタビュアーとして外部専門家の助けを得るのも一案である。また、取締役会の実効性の評価自体に「外部評価」を活用することにより、取締役会評価のプロセス等に客観性を持たせることも大切な視点である。


評価項目については、従来のCGコードに沿った形式的な評価から、より実質的な評価に変化していくと考える。政府におけるコーポレートガバナンス等に関する議論や取締役会評価を通じて抽出される各社の課題(次年度への取組み)等を踏まえると、今後は、例えば、例えば図表5のような視点を想定したうえで、具体的な評価項目を設計する必要があると考える。また、必要に応じて、CGコードで求められている取締役会全体の評価だけでなく、各取締役の個人評価も有益であろう。事例は少ないものの、日本においても、取締役各個人の取締役会全体に対する貢献等について自己評価や相互評価を行う事例も出始めている。各取締役が具体的にどのように取締役会全体に対して貢献できているか等の視点で評価することは、さらなる取締役会全体の課題の把握や、各取締役の意識改革にもつながると考える。

取締役会評価における視点

インターネット経済の急速な発展、人材不足の顕在化、機関投資家の物言う株主化といった経営環境が大きく変化する中で、経営戦略等も過去の延長線上ではない、大胆な成長戦略の構築や既存事業の構造変革が求められている。そうした際に、大胆な経営判断が必要となり、取締役会の役割が「形式的な決議の場」から「実質的な議論・決定の場」に変わることが求められている中で、取締役会評価は、取締役会の「あるべき姿」や「現状・課題」を整理する良いツールである。取締役会の実効性向上に向けた具体的なアクションプランを策定する為には、より具体的な課題把握が不可欠である。継続的に課題を抽出していくためには、評価手法や評価項目は、状況に合わせて、適宜見直していくことが大事であり、これにより取締役会の改革・改善を効果的かつ速やかに実施できると考える。

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