役員報酬制度見直しの好機到来?!でも検討は慎重に

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  • マネジメントコンサルティング部 主任コンサルタント 増田 幹郎

業績に回復の兆しが見えた企業、当面の業績に見通しがついた企業などを中心に、役員報酬制度の見直しに着手するところが目立つようになった。日本企業では、バブル経済崩壊以降、役員報酬の改定(増額)に手をつけ難い空気に包まれていた状態であることは否定できない。制度改定検討支援先においても、役員報酬制度の見直しについては、非常に慎重な態度をとる企業も見受けられたのも事実である。そのようななか、株価にも回復傾向が感じられるようになり、役員報酬制度を見直す機運が高まってきたということだろう。これら企業で見直しのテーマとなっているのが、固定報酬中心の“従来型”役員報酬制度から、業績連動給や株式報酬を取り入れた体系への改定である。


また、平成26年6月24日に閣議決定された『「日本再興戦略」改訂2014』で“企業統治(コーポレートガバナンス)の強化”が挙げられている。日本(企業)の『稼ぐ力』を取り戻す施策の一つとしてのコーポレートガバナンス強化であるが、これは、同じく今年2月策定の日本版スチュアードシップ・コード、同6月に改正された会社法とも相まって、企業経営者に中長期的な収益性・生産性を高め、持続的に企業価値を向上させることを促すものと考えられる。稼ぐ力を取り戻し、企業価値を高め、グローバル競争に打ち勝つことを経営者に挑戦させる“攻め”のコーポレートガバナンス強化である。その観点から役員報酬制度のあり方を見れば、経営者が“攻める”ことに対するインセンティブが働く仕組みを持ったものが必要だと考えられるだろう。経営者が企業価値を向上させれば、その分のリターンを享受できるようになる。そのための役員報酬の業績連動化や株式報酬化は、現在の流れと言えよう。


役員報酬制度における業績連動給と株式報酬の位置づけを見ると、前者は主に短期インセンティブとして役員賞与の見直しに、後者は主に中・長期インセンティブとして役員退職慰労金制度の見直しの場面で検討される例が多い。


特にここ数年は、株主からの風当たりが強い役員退職慰労金制度を廃止する企業が、株式報酬型ストックオプションを導入することにより株式報酬化を図っている。株式報酬型ストックオプションは権利行使時の経済的利益を退職所得とする設計が可能であるため、税制面でのメリットから、役員退職慰労金制度の代替制度として現時点での主力選択肢の一つとなっている。事前に決めた権利行使価額(主な場合は1円)で自社株を購入できる権利を役員に付与することで、役員に自社株を付与することとほぼ同様な効果が期待できる仕組みを持つことになるのである。


しかしながら、昨今、導入済みの株式報酬型ストックオプションを廃止して再度見直しを図る企業の例もあることは、これから役員報酬制度の見直しを検討する企業にとって留意しておく価値はあろう。


権利行使時の経済的利益を退職所得とする制度設計においては、役員退職慰労金を原資として付与個数を決める場合が多い。例えば役職毎に単年度毎の報酬額(例:役員退職慰労金の1年あたり増加額分)を基に、ストックオプションの付与個数を算定する。具体的には単年度報酬額を付与するストックオプションの公正価額で除して個数を決定するが、この公正価額は株価が低いほど低く、高ければ高くなる仕組みがある。従って、役員にとっては付与時の株価が高い場合より、株価が低いほうが付与個数は多くなるという、逆向きのインセンティブだと捉えられる懸念が生まれる。


さらにまた、退職所得とするためには、役員在任中の権利行使は不可とする設計にする必要がある。そのため、役員在任中の保有株式数は増えることはない。コーポレートガバナンスの観点等から在任役員に株式を保有させる(保有数を増やす)には、別の手段を考えるか、在任中に権利行使可能な設計にすることになる。その場合は、権利行使時の課税対策がポイントになってくる。自己株式を多く保有しており、それを在任役員に持たせたいと考えている企業においては、注意すべきところだろう。


当然のことながら、どのような制度・仕組みにおいても、メリット、デメリットはある。制度見直しの際には、各制度の持つ特徴の他、導入時および制度運営の事務負担やコストなどを勘案して、十分な検討と事前準備が必要なのは言うまでもない。上記にある、在任中に権利行使可能と設計する株式報酬型ストックオプション導入の場合は、権利行使時にかかる所得税負担を考慮して役員賞与も再構築するなどが考えられ、この機会に役員報酬体系全体を見直すような大掛かりな対応なども検討することにもなろう。役員報酬制度見直しの承認を得る株主総会までの時間を逆算して、余裕を持った検討を心掛けたい。

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