2013年12月25日
企業活動のグローバル化、株主重視経営の要請、機関投資家・議決権行使助言機関の提言等により、コーポレート・ガバナンスに対する注目度は一層高まっている。直近では社外取締役の選任に加えて、役員報酬(業績連動報酬)に関連した上場会社の取り組みを目にすることが多い。
東京証券取引所の「コーポレート・ガバナンス白書2013」(※1)によると、役員報酬について何らかのインセンティブ付与に関する施策(※2)を実施している企業は東証上場会社のうち87.2%を占め、さらに業績連動型報酬の導入を開示している会社は22.7%と近年は増加が続いている(前回(※3)19.7%、前々回17.3%)。
TOPIX100採用企業(2013年10月31日時点)の直近の有価証券報告書を調査したところでも、役員報酬の決定方針(業務執行を担当する役員に係る)に何らかの変動要素(業績連動、業績等を反映、ストックオプション等)を含めている会社は相当数に上っており、少なくとも開示面では業績連動的な役員報酬を導入する取り組みは着実に進展しているといえよう。今後はこれらの取り組みをより実質的・効果的に機能させ、企業価値向上に向けて体系的に運用していく必要があると考える。
業績連動報酬は、株主と利害を共有すると同時に経営戦略上の業績目標達成を動機づけるインセンティブの役割として有効であるが、報酬要素や構成割合等の設計方法は企業の方針・戦略により様々である。TOPIX100採用企業より先進的な業績連動報酬の例を以下にご紹介する。単年度・中長期的な視点で企業価値向上を動機づける報酬設計がなされており、企業の方針・意志がうかがえる制度となっている。
【業績連動報酬の例(要旨)】
キリンホールディングス
- 業績連動報酬部分は賞与と株式購入報酬で構成
- 賞与は連結業績指標(ROE、EVA、売上高)および個人業績評価に基づき算出
- 株式購入報酬は基本報酬の一部として支給
- 報酬総額における業績連動報酬の割合は40~50%(連結業績標準時)
小松製作所
- 業績連動部分は連結業績指標としてROE・ROAを基本とし、成長性・収益性を加味して算出
- 報酬総額における業績連動報酬の割合は、下限0%から上限60%相当
- 支給合計額の2/3相当は賞与として金銭、1/3相当はストックオプションにて付与
資生堂
- 業績連動部分は短期インセンティブ(賞与・金銭)、中期インセンティブ(金銭)、長期インセンティブ(ストックオプション)で構成
- 賞与は連結業績(売上高、営業利益率、当期純利益の計画に対する達成度)と各担当の事業業績に基づき算出
- 中期インセンティブは3カ年計画終了年度終了後に目標達成度に応じて算出
- 報酬総額における業績連動報酬割合は約60%(3カ年および年度目標の達成率が100%であった場合の各役員の平均)
さらに上記の3社においては、社外取締役等を含めた報酬諮問委員会を設置し、報酬方針等につき審議・答申等を行っている。報酬制度の設計のみならず運用(報酬決定プロセス)についても、社外役員を活用することで客観性・透明性を高度に確保しているといえよう。
既に従業員の人事制度は成果的で業績連動割合が相当大きいにも関わらず、役員報酬制度が固定的なままであると聞くことがある。そのような企業におかれては役員と従業員の一体感を醸成するためにも、経営戦略に沿った業績連動指標の採用や業績連動割合の拡大等を検討してみてはいかがだろうか。さらに報酬決定プロセスにおいては社外役員を大いに活用すべきだろう。経営戦略を体現した役員報酬方針を企業の姿勢として表すことは、社内外(株主・従業員等)に対する納得感・信頼感を得られることにもつながる。
(※1)「コーポレート・ガバナンス白書2013(㈱東京証券取引所 2013年2月)」。2012年9月10日時点での東京証券取引所にて上場している会社の報告書データを対象とする。
(※2)ストックオプション、業績連動型報酬、その他(業績や貢献度等を勘案する等の記載)をさす。
(※3)東京証券取引所の前白書データ、2010年9月10時点。前々回は2008年8月21日時点。
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