2013年01月09日
インターネットはすっかり社会に根付いた。ヤフー、楽天、アマゾンに始まって価格.com、ぐるなび、クックパッド等々、生活のあらゆる分野で、ネット企業が提供するネットサービスが浸透している。また携帯電話・スマートフォン等の分野では各種のアプリ(ゲーム等)の提供者が、ユーザーの空き時間にサービスを利用してもらおうとしのぎを削っている。経済産業省の特定サービス産業調査によると2011年度の「ネット付随サービス業」全体の売上高は1.1兆円となった。なお前年度は9,806億円であり、着実に伸びている。
一方総務省「情報通信白書」によると2012年3月末の時点で世界の時価総額上位500社の中に日本のネット企業(次頁注を参照)は1社(ヤフー(日))しかない。その理由としては、日本企業はGoogleのように、世界市場で成功する例が少ないことが挙げられるが、そもそも資本市場は日本のネット企業の実態を正しく評価・反映しているのだろうか。
実はインターネット・ビジネスにおける企業の価値(時価総額)は、日米合わせて、極めて簡単なグラフで図示できる。図表1は横軸に日米インターネット・ビジネス各社主力ウェブ・ドメインのウェブ視聴率(リーチ:米Alexa.comの公表データ)、縦軸に円換算の時価総額をとったものである。

Alexa.comのデータは正確性に不安があると言われているが、累乗近似では決定係数が0.86と極めて高かった。両対数グラフの場合、累乗近似は線形で表示されるため、関係は一目瞭然である。なお、モバイル端末のウェブ視聴率は上記の方法では入手できないため、例えばDeNAやグリーは除外している。
これによると、インターネット企業の時価総額はウェブ視聴率の累乗であり、べき指数は1を若干下回ることがわかった。つまり、ウェブ視聴率が下がれば下がるほど、時価総額は下がり、かつその下落割合は大きくなる。逆に上がると時価総額は上昇するが、その上昇割合は上がるにしたがって小さくなるのである。
また、このグラフを見ると、日米ともにEC(電子商取引)関連が近似曲線より上回っていることがわかる。逆に情報提供サービスやSNSは低めに評価されている。景気後退の影響で広告掲載型のビジネスモデルがディスカウントされているように見える。
インターネット業界は、ネットバブル時代によく使われたPSR(株価売上高倍率)や会員数・ユニークユーザー数の2乗といった指標にはあまり影響を受けていないと思われる。しかし、YelpやGrouponのように赤字の会社でもそれなりの評価を受けているし、ウェブ視聴率は時価総額をかなり説明できるということはご覧の通りだ。
そして国内向けサービスに留まる限り時価総額1兆円の壁は厚いこともわかる。日本のネット企業が時価総額1兆円を超えるには海外に輸出できるサービスを開発せねばならない。
資本市場は極めてシビアな眼で企業を判断するが、実はそこに成長の手がかりがあることが多い。上場企業は市場との対話で、未上場企業はそれら上場企業の開示資料をベンチマークに分析することで、思わぬチャンス(とリスク)とを発見することができる。大和総研のコンサルテーションが、その一助となることを期待していただければ幸いである。(なお、本稿の詳細版を「コンサルティング・レポート」として近日公開予定です。)
(注:本稿では「ネット企業」を、総務省のネット事業者の定義に倣い、「インターネットを通じてサービスを行う、通信事業者以外の事業者のこと」と定義する。また本稿で取り上げるのは、主に個人を受益者とするサービス提供者に限定する。モバイルコンテンツ業界は考察の対象とするが、インターネット金融サービスは除外する。)
※詳細版のレポート「ウェブ視聴率で読み解くネット企業の価値(詳細版)とビジネスモデルのあり方」
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