洋上漂流物(海岸漂着物)

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2013年07月29日

  • 岡野 武志

洋上漂流物には、国内の陸地から河川等を経由して洋上に達するもの、海外から日本近海に流れ着くもの、船舶や漁業設備などから発生するものなどがある。広い意味では、固体だけでなく、廃油などの液体も洋上漂流物に含まれるであろう。これらの洋上漂流物には、海岸にたどり着いて漂着ごみとなり、あるいは、海底に沈んで海底ごみになるものも多い。平成21年に成立した「海岸漂着物処理推進法(※1)」は、「海岸漂着物」を「海岸に漂着したごみその他の汚物又は不要物」と定義している。また、環境省が定めている「海岸漂着物流出防止ガイドライン(※2)」(平成25年3月)では、漂着ごみ、漂流ごみ、海底ごみについて、それぞれ以下のように定義している。


海岸漂着物流出防止ガイドラインによる定義

漂流・漂着ごみについては、地域特性が異なるモデル地域を設定して、実態調査が行われている(※3)。この調査によれば、漂流・漂着ごみには、発泡スチロールの破片、潅木・流木、食品の容器包装や飲料用ボトル、ロープ・フロート等の漁業用具、くつ・サンダルなど、さまざまなものが含まれている。また、日本海沿岸地域を中心に大量の廃ポリタンク等が漂着した時期があり、環境省では廃ポリタンクのほか、医療系廃棄物や特定漁具(浮子)について、漂着個数等を調査している(※4)。医療系廃棄物には、注射器や薬瓶のほか、点滴器具類やカテーテルなどもあるという。しかし、漂流ごみや海底ごみを含めた洋上漂流物の全体像は、必ずしも明らかにはなっているわけではない。世界全体で海洋に流れ出すごみの量は、年間600万~700万トンともいわれているが、各国の経済・社会の状況や洪水などの自然災害の状況によっても大きく影響を受けるものと考えられる(※5)


漂着ごみについては、海岸の景観や環境を悪化させるだけでなく、生物が誤って食べる、釣り糸等に絡まる、ガラス等で負傷する、漁業器具等が破損するなど、さまざまな影響もあるため、海岸漂着物処理推進法により、発生の抑制や円滑な処理に向けた取り組みが進められている(※6)。漂流ごみについても、平成25年4月に閣議決定された「海洋基本計画(※7)」では、沿岸域の総合的管理の一環として、「海洋環境の保全を図るため、海面に浮遊するごみ、油の回収を実施する」としている。しかし、閉鎖性海域などの一部の地域を除いては、普段目に触れない海底ごみが話題になることは少ない。また、日本から越境して外洋や他国を汚染する漂流ごみについて、関心を持つ国民もそれほど多くないであろう。


洋上漂流物は、個別の発生源を特定することが難しく、責任の帰属を明確にできない場合も多い。また、洋上漂流物には、多種多様のものが混在するとともに、汚損や腐食、生物の付着などが進んでいるものも多く、コストをかけて回収しても、リサイクル等に活用しにくい面もある。しかし、グローバル・コモンズである海洋が、共通のごみ捨て場となることを防ぐためには、漂着ごみや沿岸の漂流ごみだけでなく、海底ごみを含めた洋上漂流物全体について、周辺国等と連携・協力しながら、一層の取り組みを進めることが求められよう。また、洋上漂流物の多くは陸上から排出されていることを認識し、国民一人ひとりが、ごみを散らかさない生活に心がけることも重要であろう。




(※1)「海岸漂着物処理推進法」環境省

(※2)「漂着ごみ問題に関するパンフレット・マニュアル・ガイドライン」環境省

(※3)「第2期漂流・漂着ゴミに係る国内削減方策モデル調査総括検討会報告書」(平成23年3月)環境省

(※4)「日本海沿岸地域等への廃ポリタンク、医療系廃棄物及び特定漁具の大量漂着について」環境省

(※5)東日本大震災では、家屋や自動車などおよそ500万トンが海洋に流出し、そのうち7割程度が日本沿岸付近に堆積、残りの3割程度(約150万トン)が洋上漂流物になったと推計されている。

日本政府の具体的な取組について」首相官邸

(※6)海岸漂着物処理推進法は、海岸法等で定められた「海岸管理者等は、その管理する海岸の土地において、その清潔が保たれるよう海岸漂着物等の処理のため必要な措置を講じなければならない」(第17条)と定めている。

(※7)「海洋基本計画について」首相官邸
 


(2013年7月29日掲載)

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