2012年04月04日
株主構成が大きく変わっている
日本企業の株主構成が大きく変化している。商事法務が毎年行っている調査によると、2000年度には安定株主の比率が40-60%台と回答した企業が60%に達していたが、2010年度には32%まで低下している。一方で10-30%台と回答した企業は28%から55%に上昇している(下図参照)。
背景には金融機関による政策保有(多くが持合い)株式の売却がある。自己資本規制の強化や国際財務報告基準(IFRS)の導入が議論される中、この傾向が続くことはあっても後戻りすることはないと考えるべきだろう。日本企業は持合いを中心とした安定株主中心の株主構成から、機関投資家や個人投資家中心の株主構成への対応を迫られていると言える。
図表. 安定株主の比率(資本金300億円超)

(出所)商事法務より大和総研作成
懸念される敵対株主リスク
株主構成の変化に対応して懸念されるのが敵対株主リスクだ。買収提案や株主提案といった直接的な手法に加え、近年では株主総会における議決権行使が注目されている。昨年、ニフコが上程した社外監査役選任議案が否決された事例が典型だが、その他にも賛成率が低迷した事例は少なくない。今年も12月決算の企業が株主総会を終えているが、トレンドマイクロの一部議案で賛成率が60%を下回るなど、機関投資家の見方は厳しくなる一方のようだ。
機関投資家のタイプは様々だが、(1)企業の成長性を重視する投資家(グロース)、(2)株価の割安性を重視する投資家(バリュー)、(3)株価指数への連動を目指す投資家(インデックス)に大別できる。議決権行使において、注意すべきは(2)バリューの存在である。議決権行使状況を見ると、(1)グロースは(2)バリューや(3)インデックスに比べ会社提案に賛成票を投じるケースが多い。現経営者の下で企業成長が見込めないと判断する場合には、反対票を投じるよりも株式を売却することを選ぶためだろう。逆に(2)バリューは割安な株価の反転を期待しているから、企業に変化を求める。売却よりも議案への反対を選ぶのは自然と言えよう。
求められるのは資本市場との関係再構築
対応策は対話を通じて安定株主以外の株主(特に(1)グロース)の信任を高めることに尽きる。具体的には、以下の3つだ。
- 投資家の視点から企業の将来を語る(=コーポレート・ストーリー)
ポイントは投資家の視点。中期経営計画等を策定・公表する企業は珍しくないが、依然、社内の経営管理の視点が強いなど投資家の視点から十分な内容とは言い難いものが少なくない。 - 1.の実施を監督する機能としてコーポレート・ガバナンスの向上を図る
オリンパスや大王製紙といった直近の不祥事が注目されがちだが、従前から日本企業のガバナンスに対する海外投資家の評価は高いとは言い難い。社外取締役の設置等の取り組みは広がっているものの、海外投資家の要求を十分に満たす水準とは言い難いのが実態のようだ。 - 1.及び2.に関して投資家に伝える(=IR)
各企業の株主構成等に応じて個人、国内機関投資家、海外機関投資家等のターゲットを定めて伝えていく必要がある。
株主構成は企業と資本市場の直接的な接点だから、上記の対応策は資本市場との関係の再構築ということができる。資本市場の要求に追われる形ではなく、企業が先手を打って対応していくことが求められていると言えよう。
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