女性の進学率が地域の人口格差に与える影響

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  • マネジメントコンサルティング部 主任コンサルタント 岩田 豊一郎

合計特殊出生率(一人の女性が一生に産む子供の数の平均)の低迷を背景に人口減少が加速化している。そこで国は長期的な人口維持を目指して、「まち・ひと・しごと創生法」を施行し、昨年度は全国の自治体で、人口ビジョンおよび創生総合戦略が策定された。加えて、一億総活躍社会を掛け声に、子育て支援を重要な政策課題として、子育てと仕事が両立できる社会環境を目指した取り組みが進められている。


合計特殊出生率低下の要因は様々であるが、本稿では晩婚化とその背景に焦点を当て、女性の高学歴化の影響を検討する。そこで、合計特殊出生率、女性の大学進学率、25~29歳女性の未婚率の長期的な動態を見たのが図1である。

図1 合計特殊出生率、25~29歳女性未婚率、女性の大学進学率の長期推移

合計特殊出生率に注目すると、高度経済成長期における核家族化の進展により1950年代に急低下しており、これは夫婦に子供2人から構成される標準世帯が増加した時期に当たる。その後、合計特殊出生率は現在の人口置換水準である2.07に近い水準で推移したが、1970年代後半から再び減少に転じており、同時に25~29歳女性の未婚率と女性の大学進学率が上昇している。すなわち、近年の日本における合計特出生率の低下要因として、女性の高学歴化による晩婚化を通じた出生数の低下があると考えられる。


次に、合計特殊出生率の地域間格差と女性の高学歴化の関係を見るために、2005年時点における20~24歳女性の通学率と、5年後の2010年における25~29歳女性の未婚率について都道府県別に見たのが図2である。なお、通学率とは、労働状態を問わず、当該年齢の人口に対する通学人口の比を示しており、大学以外の学校も含む。

図2 都道府県別の女性の通学率と女性の未婚率

図2より、20~24歳女性の通学率が高い地域ほど、25~29歳女性の未婚率が高くなる傾向にあることがわかる。特に通学率と未婚率の双方が高い地域には首都圏と関西圏の都道府県が集中している。合計特殊出生率は都市部になるほど低い傾向がみられるが、その背景には、大都市圏における高学歴化を通じた晩婚化の進展があると考えられる。


ところで、図2は都道府県別の住民の通学動向を見たものであり、地域の進学動向は反映していない。そこで、進学時の地域選択の状況を見るために、出身高校における所在地別大学進学者数に対する地元大学への進学者数の比率(地元進学率)を都道府県単位で見たのが図3である。

図3 女性の都道府県別の地元大学進学率(平成27年度)

女性の地元大学進学率は各地方の中核的な都道府県の地元進学率が高いのに対し、そうした地域に隣接する都道府県の値は低い傾向にあることに加え、大都市圏から離れた北海道および沖縄県の地元進学率は高い。全体として地元進学率は約10%から80%まで幅があり、地域差が大きい状況である。合計特殊出生率が高い地域でも、進学時に県外へ多くの女性が流出した結果であれば、人口減少は止まらない可能性が高い。


本稿の分析で示したように、少子化要因の一つとして女性の高学歴化を通じた晩婚化の進展が考えられるため、子どもが欲しいときには躊躇することなく産み育てられる環境の整備は急務である。特に、地方からも多くの女性進学者が流入する大都市圏においては、保育所の整備などによる子育て支援に加え、労働環境におけるワークライフバランスの進展など、企業側の努力も求められる。


政府においては、日本は、団塊の世代の引退による労働人口の減少期に入っており、新たな労働力として女性の更なる社会進出も期待されているだけに、子育てと仕事の両立できる社会環境作りは急務と言える。

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