持株会社化でグループ総合力を強みとする企業風土を醸成する

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2013年03月13日

  • 水上 貴史

2013年に入っても持株会社体制へ移行する企業が相次いでいる(KNT-CTホールディングス(1月1日)、ユニーグループ・ホールディングス(2月21日)、ヤンマーホールディングス(4月1日予定)、ANAホールディングス(4月1日予定)など)。全般的に、持株会社体制に移行する目的として、グループ経営資源の最適配分、事業ポートフォリオの最適化、グループシナジー効果の創出といった点が掲げられているが、実際、組織の中にいる人材に対しても大きな影響を及ぼすものである。それゆえ、単に必要な部署に必要な人材を投入するだけでなく、人材育成にも活かされ、結果、社員の意識改革にもつなげることができる。

(1)グループ経営に長けた人材の開発

持株会社に経営に長けた人材を集め、グループ経営のできるプロフェッショナルな人材を専門的に育成することができる。特に、次代を担う経営者には、持株会社から事業子会社に幹部として出向させ、一定の責任を課すことが経営意識の早期醸成を図るうえで有効である。実地経営を通じてこそ、経営センスが磨かれるものである。加えて、その評価指標と、実績に見合った報酬制度を整備し、経営者のモチベーションを高めることも重要である。


また、各事業において、専門性に長けた人材は有望とされるが、経営資質のある人材とは必ずしも一致しない。幹部後継者になり得る有能な人材を選抜して、所有スキルや不足スキルを管理しながら、計画的に育成していくのも持株会社の務めであろう。ただし、事業子会社の立場では、有能な人材は囲い込もうとして当然である。後継者候補に関しては、持株会社が最終的な人事調整を行えるようにすることが望ましい。

(2)グループとしての視野を備えた人材の開発

近年では、製造業者は自社技術を活かして多様な分野に商品展開を図り、小売業者は上流工程の商品開発や流通まで手掛ける風潮にある。このようなビジネス環境下においては、視野の広い社員を育成していくことが望まれる。これを遂行するには、難しい社間コンセンサスを図る調整役が必要である。持株会社でグループ全体のキャリアプランや人事ローテーションの方針を定め、専門領域に偏った社員ばかりにならないよう、毎時一定の社員が他事業の経験を積める形に取り計らうことで、グループ全体が活性化し、シナジーが培われる。


また、グループの理念やビジョン、経営目標についての理解など、グループ全体に浸透させなければならない重要事項については、各社様々な見解が生じたり、浸透度が異なったりしていてはならない。グループに共通して習得すべき心得・姿勢、あるいは知識・能力に関しては、グループ研修を通じて持株会社が責任を持って教育することで徹底される。また、傘下の事業子会社の社員が、一同に会して研修を行うことで、社員にグループ意識が培われる。

(3)事業部門で的確な判断を行える組織の推進

事業部門が一会社として運営されることにより、事業運営や遂行責任の範囲が明確化される。これにより、事業子会社に必要な権限の委譲を行うことができる。自立型経営を推進することは、組織のダイナミズムを最大限に引き出すうえで有効である。具体的には、事業における随所の経営判断を、事業子会社のマネジメント層が直接行うため、当事者サイドで迅速かつ柔軟に対応できるようになる。これは意思決定のスピード化を図るだけでなく、各事業が自ら考える組織として機能するよう促すものとなる。


これを実現するためには、事業子会社で意思決定を行うマネジメント層に対して、持株会社が的確な人材配置を決めることが重要である。また、持株会社で共通業務のマニュアル化や、ベストプラクティス集の整備を進め、現場でスムーズかつ効果的に運用できるように支援していくことも効果的である。


このように、事業子会社が固有の事業領域に応じた最適人材管理・育成に注力していく一方で、持株会社は、トップマネジメントの育成、人材を流動化させるメカニズムの構築、マネジメント層の配置調整など、グループ全体を強化するうえで必要な施策を事業子会社の枠を超えて共通に実施していくことが重要な役割である。持株会社への移行は表面的には組織の構造変化にとどまるものの、グループとしてどのような人材育成が望ましいのかを合わせて検討していくことで、人材という組織内部の活性化が促されていくであろう。

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