持株会社化を活かしたスーパー業界の再編

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2012年10月10日

  • 水上 貴史
円高によって海外への工場移転を急ぐ製造業に比較して、小売業は地域密着性が重視されることから、主に国内において激戦が繰り広げられている。国内スーパーにとって、地方の過疎化が進めば市街地・都市部での攻略が極めて重要、いや生命線といってもよい。こうした経営環境の中、既存の組織を持株会社化した上でM&Aを実施する組織戦略が注目を集めている。

国内の大手スーパーでも持株会社化の動きが目立つ。イオン、セブン&アイ・ホールディングスの二大スーパーに加え、業界第3位につけるユニーもサークルKサンクスを子会社化し、2013年2月に持株会社に移行する発表を行っている。彼らの強みはスケールメリットを活かした強い仕入力・購買力であるとともに、多様な店舗業態を内部にそろえていることである。例えば、2008年8月に純粋持株会社に移行したイオンは、総合スーパー、スーパーマーケット、戦略的小型店、ドラッグ、専門店といった店舗業態で事業子会社が束ねられ、持株会社にいる各業態の経営責任者が集って、グループ戦略を図っている。2011年10月に、イオンは中国・四国エリアで強い基盤をもつマルナカグループを子会社化したが、このような多様な業態を有していることも実施に寄与したといえよう。

持株会社化を活かしたM&Aという動きは大手にとどまらない。北海道・東北地方を代表するアークスは、2002年に札幌の食品スーパー「ラルズ」と帯広の「福原」が統合し、持株会社化して設立された。その後、積極的なM&Aにより、現在は12の事業子会社が連なるグループに成長している。事業子会社はいずれも地方の有力スーパーであり、互いに協力しあう地域連合型の経営を行っているのが特徴である。2006年に長岡の「原信」と上越の「ナルス」が統合して設立された原信ナルスホールディングスも、地方の有力スーパー同士が持株会社を活用して手を結んだ事例の1つである。一般に中堅クラスのスーパーは長い社歴を有していて、互いに文化が異なることが多く、容易に融合を行うことができない。しかし、持株会社化することで、スーパー各社の個性を活かす場を維持し、時間をかけて必要な部分から徐々に足並みをそろえていくという経営が行える。まずは迅速に商圏内のマーケットシェアを確保することによって、イオン、セブン&アイ・ホールディングスなどに対抗する事業基盤を得ることができる。

持株会社を通じたグループ内に上下関係をつくらない経営スタイルは、スーパー各社に蓄積されたノウハウに基づく地域戦略を尊重すべきとの見解によるものといえる。地域によって食生活も嗜好も異なるため、地場に根差したスーパーが最も来店客のことを理解しているという土台に立脚している。業界上位の企業も、地域連合・連携強化を図る企業も、プライベートブランドをはじめとする各事業分野でさらなるスケールメリットを追求する必要に迫られる。これを実現する戦略として、持株会社化を活かしたM&Aの動きが加速していくであろう。

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