経営戦略の羅針盤 第20回 研修考

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勤務先が民間部門でも公共部門でも、社会人となるとさまざまな研修プログラムが組まれている。


一般的な階層別研修

新入社員研修では、トップの講話に始まり、組織体制の説明や人事福利厚生制度の紹介、ビジネスマナー研修、さらに職務遂行上必要な資格取得のための研修などが相場である。2-3年経つとより上級の資格やスキルの研修が組まれ、5-7年目辺りになると中堅社員研修と称して、資格やスキルばかりでなく次期管理職としてのマネジメントやコミュニケーションについて学ぶ研修が組まれるようになってくる。さらに、10-15年目では、管理職・マネージャー研修と呼ばれる、リーダーシップ・人間関係(コーチングなど)・問題解決手法などを体得するプログラムが組まれるようになる。昨今ではこれらに加えて、コンプライアンス、コーポレートガバナンス、企業の社会的責任、リスクマネジメントなどのテーマも研修の一部として盛り込まれるようになってきた。そして、20年目を過ぎたあたりでは役員・部長を対象に、経営の視点に立った研修が組まれるようになる。


研修の運営方法では、従来からの集合研修、通信添削などに加え、e-ラーニングなど幅広く実施されている。


集合研修について少し考えてみたい。


社内研修におけるミスマッチ(企画者側の意図と受講者側の意識)

私自身もこれまで多くの社内の集合研修に参加する機会があったが、たびたび感じるのは企画者側の意図と受講者側の意識にミスマッチが存在することである。それは、企画者側は、限られた予算とスケジュールの中で効果的と思われる研修プログラムを組まなければいけない一方で、受講者側は目前の業務で忙しい時に現場を離れて研修に参加し一定時間拘束されるからである。


受講者全員から「大変参考になった」との評価を得るのは無理なのは、企画者も承知している。しかし、満足度を高めることは可能である。


例えば、事前調査である。年度末などに研修に関するアンケートを実施するのである。それには、過去に実施して満足度の高かった研修を参加者のコメント(個人名は明かさずに)を添えて紹介する、企画可能な研修内容を紹介して参加希望の調査を取る、などである。また、研修の本番前には、なぜ今この研修を行うのかその目的をメッセージとして明確に伝えることも重要である。法制度や社内制度の改正があったから、所轄官庁の指導や要請があったからだけではなく、自社としてその研修を通じて組織メンバーに何を意識し、留意して欲しいかをはっきりと受講者に印象づけることである。


事後調査では、研修後のアンケートはどこでも行われているが、その際に定量化できる項目(研修内容への満足度)や定性的な項目(今後実施して欲しい研修、講師、テーマ)を質問事項として盛り込むだけでなく、最近読んで感銘を受けた書籍、感動したテレビの企業ドキュメンタリーなどを聞いて社員の意識を確認してみてはどうだろうか。


マネジメント関連の研修で受講後の印象を問うと、「現場では、使えない技法である。」「当社にはこの仕組みは馴染まない。」などの回答が多いが、さらに問いを深めて、「そう考える理由は?」、「あなたが考える改善策は?」と受講者に問いかけてみてはどうだろうか。


もう一つ重要なのは、企画者側の意図だけではなく、受講者側の意識である。その研修で何を得るのかだけでなく、参加しているメンバーはどのような層でどのような思考特性を持っているのか、講師は何を伝えたいのか、プレゼン資料の中にどのようなキーワードを見つけたのか、プレゼン資料にどのような工夫や判り易さを発見できたのか、自分ならその内容をどう使うか、会場のレイアウトはどうか、などチェックしてみるべき点はいくらでもある。


一般的に、受講者側は企画者側の研修内容を批判する傾向が強いが、受講者自身が企画者側の立場に立った時、どのような企画を提案でき、またそれを実施できるのか考えてみて欲しいと私は思う。研修内容に不満なら、どう改善したら満足度が高められるのか企画者側に提案してみてはどうだろうか。


最後に、集合研修の意義は、横断的なネットワークができること、(ワークショップなどが盛り込まれている場合)似たような世代のさまざまな考え方に触れることができるなどにもある。


研修を受けさせられるという考え方から、研修で何をとらえ・気づき・変えてみたいと感じたのかを考える場にしてはどうだろうか?それは、受講者側の意識にかかっている。

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